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145.とあるメイドの決心

 ここ数日で、ウリエルのダンジョンの色んな事が決まった。


 まず一つ目。


 一階層はレベル上げ用の階層になった。


 アカバネ商会の全ての正従業員達が、これから就業六日のうち一日は、必ずここでカカシを倒す事になった。


 幾ら『カカシ』とは言え、そもそも広い高原を歩かなくてはいけないし、数もずっとあるわけではないから、簡単にレベルを上げられる訳ではない。


 ちゃんと休憩も取りつつ、念のためあまり入口から遠くには行かないようにしている。


 動かないけど――もしもを考えれば、ゆっくり進めて良いからだ。



 二つ目。


 二階層での釣りだ。


 漁隊から数人通っている。


 一階層のボスモンスターすら簡単に倒せるので、今では漁隊全員通えるようになっている。


 二階層で獲れる川魚は味も美味しいが、川魚特有の臭みが無くて海魚よりも好きな人が多かった。



 三つ目。


 今回一番の目玉の『橋飛び込み(バンジージャンプ)』だ。


 お客様が地下の部屋に入ると幻術魔道具と偽り、魔道具を使用したように見せる。


 そして部屋から外に出ると、そこに広がる高台があり、川に飛び込む


 そして跳ね返されて上がってくる。


 セレナお姉ちゃんの発想で、知り合いの皆さん楽しんでいたからきっと大盛況になりそうだ。



 四つ目。


 隠れ目玉の『空飛び込み(スカイダイビング)』。


 こちらは一般的に行ってはいない。


 特別なお客様向けの商品となっている。


 エドイルラ街の空飛び込み(スカイダイビング)用部屋が用意されており、ウリエルのダンジョン二階の天井面に下向きに扉を設置、専用部屋の床面に扉を設置したので、床面にそのまま飛び込む仕組みだ。


 飛び込む前に、必ずソフィアの分体を装着して飛び込み、柱塔に到着する。



 ウリエルのダンジョンが出来た時、まさかアカバネ商会の商品になると思わなかったけど、二階層のおかげで大きな事業になりそうだ。


 ウリエルのダンジョンを一年間掛けて、開通してくれたヘレナには本当に感謝してもしきれない。


 そんなヘレナは、今度は違う作業に勤しんでいる。


 帰って来たばかりだから休んでいいよって言ったけど、従魔だから全く疲れないと次の作業へ向かってしまった。


 次は島の大きさを広くしたいとの事だった。




 ◇




 ダグラスさんから、これからの事業の報告を聞いて、屋敷を出ようとした。


【クロウくん! 今話せる?】


 お母さんからの遠話だった。


【お母さん! 丁度今、報告会終わった所なので大丈夫ですよ?】


【そっか~、では急いで屋敷に来てくれる?】


 お母さんに言われるがまま、エドイルラのエクシア家屋敷にやってきた。



 リビングに行くとお母さんと執事のサディスさんとメイドのリーナさんがいた。


「お母さん」


「クロウくん、いらっしゃい」


 お母さんに言われ、ソファーに腰を掛けた。


「実はね――、リーナから話しがあるの」


「え? リーナさんから??」


 少し意外だなとリーナさんを見つめた。


 リーナさんは申し訳なさそうにしていた。


「実は……、私……屋敷を辞めようと思っております」


 えええええ!?


「えええええ!?」


 リーナさんがそんな事を思っているとは……。


「仕事を辞めるのは……私達では止められないわ、でもせめて理由を教えて貰いたいの」


 僕も理由が知りたかった。



 リーナさんが口を開けた。


「はい……私はクロウ様を生涯守っていくと誓いました」


 あれ?


「それは知っているわ。だったら、尚更辞める理由が分からないわ」


「今ではクロウ様も学園に入られ……アカバネ島で暮らされておられます」


 メイドのリーナさんと執事のサディスさんは家族同様に思っているので、アカバネ商会や島の事も知っている。


「ですので……申し訳ございませんが、屋敷を辞めさせて頂き……アカバネ商会の従業員になるよう頑張る次第でございます」


 ええええ!?


「え!? アカバネ商会の従業員に?」


「はい、出来れば、クロウ様のメイドにまたなれるよう励むつもりでございます」


 リーナさんがそんな事を思っていたなんて……。


 最近エドイルラ街の屋敷には帰って来ていなかった。


 学園に入学した事もあるけど……既にエドイルラの屋敷ではなく、アカバネ島の屋敷が僕の家になっていた。


「そうだったの――でもそれは許可出来ないわ」


「っ!?」


 リーナさんが肩を落とした。


「クロウくん、このままリーナに辞めて貰うのは、エクシア家として――いいえ、自分の息子を長い間世話してくれた方に対して失礼だと思うわ。だからこれが母親として、エクシア家の人としてお願いなの」


 お母さんが僕を見つめてきた。


「どうか――リーナをクロウの屋敷で雇っては貰えないかな?」


「え!? 寧ろ、島の屋敷にリーナさんが来てくれるなら、僕は大歓迎だよ!」


 僕の声にお母さんとリーナさんが嬉しそうに笑ってくれた。


「だって! リーナさんも僕には大事な人なんだから! 理由があって辞めるなら仕方ないけど、うちの商会に来たいなら大歓迎だよ!」


 リーナさんは涙を浮かべて喜んでくれた。



 お父さんお母さんには、有望なメイドさんを引き抜いたとの事で、白金貨一枚を支払った。


 物凄く嫌そうな顔をしてたけど、これはこれ! それはそれ! で何とか渡した。


 リーナさんには、引き抜き給金だからと、金貨五十枚を渡した。


 実はリーナさん、元々住んでいた田舎村に仕送りをしていた。


 何でもうちの屋敷に来る前に、エドイルラ街までの旅金や生活費を、村総出で出してくれていたそうで、エクシア家のメイドとなってからも多くの給金を仕送りしていた。


 向こうからは、もう止めてくれと言われていたけど、エクシア家のメイドとして人情を大事にしたいとずっと送っているそうだ。


 エクシア家への恩返しは、これで終わりという事で、村に金貨を送って、これで最後にすると言っていた。




 こうして、アカバネ島の僕の屋敷に、初めてのメイドさんが出来た。


 それは長年、僕を世話してくれた、今ではメイド長となったリーナさんだ。

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