143.再び空へ
「も、申し訳ございません!!」
エレン君の話を聞いたディアナが僕に土下座した。
「わ、私のせいで……クロウ様が……」
い、いやいや……
あれは全て僕が悪い……
全く余裕がなかったから……
どちらかと言えば、一番の被害者はディアナなのではないか?
それから何とかディアナとエレンくん達を宥めた。
エレンくんから、実はディアナを助けるために、僕に盾突こうとしたと聞いたときは少し安心した。
何か大きな理由で嫌われていたのかと不安で一杯だったから。
そんなエレンくんだけど、宰相様の息子であるものの、僕のエクシア家も大貴族のため、凄い緊張していたとの事だった。
緊張し過ぎて言葉が荒くなり、あんな事になってしまったから、エレンくんも後に引けなくてずっと強面を演じたそうだ。
相手をビビらせるには、強面な風に迫った方が効果が高いと思っていた、との事だった。
これで学園で一番の心配事が解決出来て、僕はほっとした。
その後、リサから同級生の女生徒達を紹介された。
貴族だけでなく平民もいて、皆が仲良い事に、僕はとても嬉しく思えた。
しかし、後ろで僕を見ていた女生徒の数人が涎をたらしていたのは気のせいだろうか?
それから静かだなと思っていたセレナお姉ちゃんだが……。
現在、訓練の助言を行っていた。
それがとても好評のようで、流石は『剣聖』と言ったところか。
沢山の生徒達に囲まれて色々教えていた。
何だかいつものセレナお姉ちゃんと違って、凄く大人びたその光景は今まで見た事のないお姉ちゃんの一面を垣間見れた。
新たな取り組みを見せた合同訓練が終わり、僕達は『ロード』クラス棟に戻って来た。
「皆いい子達だね」
セレナお姉ちゃんが徐に話した。
「そう言えば、お姉ちゃんの二年生はどうなの?」
僕はまだ一年生の事しか見た事がなかった。
「うん、二年生もそれ程変わらないわ、三年生はデイお兄様が仕切っているし、二年生は私がいたから大きい派閥争いもなかったわ」
あっ、三年生のデイお兄ちゃんの事すっかり忘れていた。
「一年生はエレンくんだっけ? あの子が上手くまとめているみたいね。勉強家らしくて、皆から人気みたいよ?」
「そ、そうなんだ。僕は初日の件があるからちょっと苦手だったかな」
お姉ちゃんには初日、何故『ロード』クラスじゃないのかと問い詰められ話していた。
「まあ、根は悪い子ではなかったね。まさか……ディアナちゃんにあんな誤解をしていただなんて」
それを聞いたディアナがしょんぼり顔になった。
これはこれで耳が垂れて可愛い。
リサはまだクラスに行っているので、三人で食事をした。
「あ、お姉ちゃん」
「ん? どうしたの?」
「実はダグラスさんがね、先日やってた『橋から飛び込み遊び』を商売にするって」
「え!? どうやって??」
「うん、ダグラスさんから言われて、橋の遠いとこ壊して柱塔にしたの、そこから飛び込むみたい」
「へー! 見たい!」
セレナお姉ちゃんって目新しいモノとなるといつも興味津々だよね。
お姉ちゃんにお願いされて僕達三人はエドイルラ本店に来て、例の場所に向った。
エドイルラ本店の一階受付広場の横から廊下になっており、その廊下の先に二十名程滞在出来る待ち部屋がある。
その部屋から地下に続く階段があり、そのまま降りると、先程の待ち部屋よりも二倍程広い部屋に着く。
そしてこの部屋で『幻術の魔道具』と言う――形だけの魔道具により、幻術に掛かった事になる。
部屋を出ると、そこには広い高原と大きい川が流れている。
何処までも続いている高原と川。
ここはウリエルのダンジョン二階だ。
誰もダンジョンだとは想像も付かないだろうね。
そして部屋を出て、正面の方に『飛び込み台』がある。
そこには担当者が立っており、飛び込んだ者が跳ね返されて来た時、受けてあげたりする係だ。
高さは約五十メートル程だ。
セレナお姉ちゃんが、また飛び込みたいと言い出した。
ディアナも飛び込みたいらしい。
というか……この世界の人達って、高い所から飛びたい人多くない!?
余談だが、アカバネ商会の全従業員からも大人気のようで、就業時間が終わると、この部屋に集まって酒を飲んだり、飛び込みしたり遊んでいるそうだ。
まだお客様は入れていないが、もしかしたらとんでもない効果をもたらすかもしれない。
そうこうしてるうちにセレナお姉ちゃんとディアナが飛び込んでいた。
セレナお姉ちゃんとディアナの甲高い悲鳴を聞きながら僕は反対側を眺めた。
向こうの橋では釣り人が釣りを行っている。
とんとん拍子で魚を取っていて、流石に上手い。
そんな事を思っていると、
「クロウ! クロウは何で飛び込まないの?」
と後ろから不思議そうな顔をしたお姉ちゃんが近づいてきた。
「え? だって僕飛べるし」
「そう言えば、そうだったわね。ねぇ、あれでもう一回飛んでくれる?」
お姉ちゃんと一緒に飛んだのっていつぶりだっけ。
僕はお姉ちゃんをお姫様抱っこして空へ飛んだ。
表情を見なくても、楽しんでいるお姉ちゃんを雰囲気で感じた。
【ダンジョンって、上に何処まで飛べるのかしら?】
【確かに、それは試した事なかったね】
【よし! クロウ! 試してみよう!】
そして僕とお姉ちゃんは、空の更に上を目指した。