142.恨みの真実
今日は久しぶりに学園に顔を出した。
一応僕達学生だよね……。
『ロード』クラスになってから、学生である事を忘れる時がある。
基本的にセレナお姉ちゃんと一緒に行動するので全く不満はない。
セレナお姉ちゃんがいなかったあの一年は……本当に辛かったからね。
今日は既に僕が出なくなってしまった合同訓練日だった。
僕が所属していたパーティーメンバーは、他の魔法使いを入れてまた三人同じ組だった。
そして、この合同訓練、大きく変わった点があった。
何と、障害物が増えていた。
「こんにちは~」
「!? クロウ様!? おおおおお、お久しぶりです!」
「ポリスくん、また様付けだなんて……僕、ちょっと悲しいよ……」
「ごごごご、ごめんなさい、しかし、久しぶり……ね、クロウく……ん」
「うん、最近はレベルを上げていたから」
「そ、そっか」
ポリスくんは僕が組んでいたパーティーメンバーの一人だった子だ。
「しかし、何だか障害物が増えてない?」
「あ~、あれはクロウくんのおかげだよ」
「え? 僕?」
「うん、先日、クロウくんの作戦で僕とピナちゃん二人で相手の前衛三人を翻弄したでしょう?」
ピナちゃんは同じパーティーメンバーで槍使いで、長槍を使ってポリスくんと一緒に自分達より格上の相手もいるのに三人を抑え込んでいた。
「あれから多くの学生さんから、只正面切って戦うより、障害物があった方が良いと話になってね、毎回障害物を色々置くようになったんだよ」
「へぇー! 凄く良いと思う!」
「うん! エレンくんが率先してくれたんだよ!」
「えっ!? エレンくんが!?」
エレンくんは僕をやたらと嫌っている子だった。
何であんなに嫌われていたのか今でも不思議だ。
やたらとディアナの事で文句言われていた気がする。
グランセイル王国は獣人族を嫌う人多いから、多分その所為なのだろう。
暫く、みんなの訓練を眺めていた。
以前は皆、力任せで戦っていたのに、今ではちゃんと障害物の事も考えて動いている。
更に凄いのは、僕達のように『遠話』が使えないので、彼らは手信号で作戦を伝えていた。
声に出すと相手にも聞こえるから良い作戦だなと思う。
いよいよ、勝負が決まろうとした時、
「クロウティア!」
後ろから僕を呼ぶ声がしたので向くと、そちらには先程話に出たエレンくんがいた。
相変わらず、取り巻き数人と一緒にいる。
少し戸惑っている僕の前をディアナが立ち塞いだ。
そんなディアナを見つめたエレンは――、
「ディアナさん、一つだけ聞かせて貰っても宜しいですか?」
ん? 以前は乱暴な言い方だったのにどうしたんだろう?
「どうぞ、しかし、クロウ様を貶した場合――――」
ちょっと!? ディアナ!? ダメだからね!? 君がもし斬ったら――彼、二つになっちゃうからね!? まず剣から手を離そう!!
あたふたしている僕を横目にエレンが口を開けた。
「その……クロウティアは……ご主人様は……良くしてくれているのですか?」
「え? ……はい、クロウ様は最高のご主人様です」
ディアナの何一つ迷いのない返事に少しこそばゆくなった。
エレンは仲間内に何かを相談した。
そして――――、
「クロウティア様! 申し訳ございませんでした!!!」
え? 全員謝りながら土下座してきた。
どういうこと!?
「ま、待ってエレンくん? どうしたの? 何で謝るの?」
「実は我らは……『獣人族愛好会』の一員なのです! ディアナさんがご主人であるクロウティア様に虐げられていると誤解していたのです!!」
へ?
僕がディアナを?
「そんな訳ないよ! 何でそんな風に思えたの?」
そしてエレンくんから衝撃の話が続いた――。
◇
それは入学日の当日の事だった。
入学日の当日、僕はそれはそれはとても緊張していた。
そして馬車が学園に着いた時、緊張の余りに少し過呼吸になっていた。
馬車を降りて、学園に向かう足が中々進まなかった。
「クロウ様……、一度馬車にお戻りになってください」
ディアナの言葉に従い、一度馬車に戻った。
そして、その際、エクシア家の紋章がある馬車から降りて、一度馬車に戻った僕を多くの者が見ていた。
その中にはエレンくんの友人もいた。
「クロウ様? 落ち着きませんか?」
「ご、ごめん……やっぱり学校となると……」
「ガッコウ? ……、クロウ様! 私の耳をお触りください!」
ディアナは少し顔を赤くしてそう話した。
実は僕は動物が大好きで、モフモフしていると、とても幸せになっていた。
勿論、ディアナも知っている。
だから僕を心配したディアナから、僕を落ち着かせようと耳を出してくれた。
全く余裕がなかった僕は――
全力でモフモフした。
「あうっ……くろ……しゃま……そこは……あうっ」
ディアナの事なんて何も見えず、僕はひたすらにモフモフした。
尻尾が見えたのでもう片手で尻尾もモフモフした。
「ひゃん……そこは……あ……ああっ」
何も聞こえていなかった。
何とか落ち着いて、馬車を降りた。
自分がどんな顔をして学園に向かったのかすら覚えていないが、周りからはとても怖い顔をしていたと言っていた。
いや……ただ緊張しすぎていただけなんだけどね……。
そして僕の隣を歩くディアナ。
顔が真っ赤で、フラフラしていて、服も髪も少し乱れて目には涙を浮かべていた。
――らしい。
それを見た生徒達は、クロウティアを悪逆非道の貴族だと思ったのだった。




