120.白バッジ
ピグリマ先生に呼び出された。
ディアナは用事があるからとアリサと一緒に出掛けていた。
ディアナが用事で出掛けるなんて珍しいけど、リサと仲良くしてくれるのはありがたい。
ピグリマ先生に呼ばれて、職員棟の貴賓室に迎えいれられた。
「クロウティアくん、急なお呼び立てすいません」
「いいえ、ピグリマ先生、さっきほどの合同練習では大変申し訳ございませんでした」
「そんな! とんでもありません! 寧ろ、その件で話さねばならない事があるのです」
うう……これ怒られるのかな。
そう思っていると、いきなりピグリマ先生立ち上がり、ソファーの横に綺麗に移動して、それはもう見事な―――、土下座をした。
「クロウティア様、此度の試験の不備により、あろうことか、クロウティア様をCクラスなんて決めてしまい、大変申し訳ございませんでした!!」
えええええ!?
「えええええ!? 先生!? ちょっと待ってください! どういう事ですか!」
「まだ十二歳にして、『雷属性魔法』の最上位魔法である『スタン』をいとも簡単に使える時点で、クロウティア様をCランクなんかに入れてしまい、多大なるご迷惑をお掛け致しまして、大変申し訳ございませんでした」
「ええええ!? 『スタン』ってそんな凄い魔法だったんですか!?」
土下座したままのピグリマ先生が驚いた。
「ま……まさか……それも知らずに使ってらっしゃるとは……確かに人に使っている時点で気づくべきでした……」
「ええええ!? あれ人に使うと何か不味いんですか!?」
「勿論です、あれは人のような体内魔法抵抗力が低い種族には即死魔法なんですよ?」
えええええええええええええ!?
『スタン』っぽい魔法って、モンスターに使ったら便利だったから、只の弱い魔法だと思っていたのに!
即死って……即死って!!
今の僕は顔真っ青な自信があります。
「それで、クロウティア様、どうか……、『ロード』クラスに編入してください!」
えええええ!?
「えええええ!?」
「現在『ロード』クラスはセレナディア様がおります。セレナディア様からは『ロード』クラスへの編入の許可も取っております、反対する者が誰一人おりません!」
「でででででも……ライお兄ちゃんとデイお兄ちゃんは断わったって……」
「兄君達はそれはとても素晴らしい才能でした。しかし自分達の職能が只の『剣士』だと言い張りまして……、『上級剣士』に勝てる『剣士』等いないと言うのに……」
あ……お兄ちゃん達、色々やっていたんだね。
「ですが、クロウティア様はその比ではありません。魔法科で『雷属性魔法』を使え、『上級剣士』より速い速度で動ける魔法使いなんて、私は初めて聞きました。いいえ、初めて見ました!」
あっ、訓練中、周りが遅いなと思ったけど、あれが普通だったのか……。
いつもセレナお姉ちゃんとの稽古くらいの感覚だったけど……。
あ……そういやお姉ちゃん『剣聖』だった。
最近島で稽古している警備隊とか、全員に補助魔法掛けていたから、あれが普通に思えていた。
「魔法使いの最大の弱点は、ステータスの貧弱さです。私も中級魔法使いとして『雷属性魔法』を使えますが、身体能力の低さで、一対一で同ランクの戦いとなりますと、まず勝てないでしょう。ですがクロウティア様は身体能力ですら戦士科を大きく上回る所か……私の見立てですと上級の戦士系職能より強いと思うのです! はい!」
僕はピグリマ先生の熱弁にすっかり押されていた。
別に目立ちたい訳でもなかったけど……。
セレナお姉ちゃんと一緒に過ごせるならいいのかな?
「これは我々教師陣並び校長先生からの意思です。どうか受け取ってください」
ピグリマ先生から渡されたのは、白く輝いている生徒バッジだった。
学園アルテミスでは生徒の区分のため、『ノービス』クラス以上のクラスにはバッジを胸元に付けるように言われている。
これだけでフリーパスとなる訳だ。
そして、それぞれ色があって、赤はナイトクラス、青はアルケミストクラス、白はロードクラスだ。
更に、白のバッジは物凄い力を有する。
例えば、職員棟への自由な出入りが可能となる。
それが如何に凄い権限かと言うと、『貴方は既に王国の最上級の職の椅子を準備しております』と王国から言われる程の権限だ。
だから白いバッジを付けた時点で、学園の校長先生よりも偉くなるのだ。
その権限を使えば、他の生徒の授業内容まで変更可能となっている。
それ程、王国では上級職能を大事にしている。
この学園で上級職能を持っているのはたった二人だ。
それもそうで、基本的に上級職能を持ってる程、凄い者は教師になるよりも、宮廷魔導士だったり、王宮近衛兵だったり、より身分の高い職が沢山あるのだ。
「……、分かりました。ですが少々待って貰えますか?」
「はい、幾らでも待ちましょう。どうかよろしくお願いします」
◇
◆アグウス・エクシア◆
僕の息子、クロウから渡されている『遠話の水晶』。
いつでも、どこでも、見えない人と話せるとんでもない魔道具だ。
そんな魔道具から連絡が来た事が伝わって来た。
家族の誰かだと思う。
【もしもしー、お父さん?】
クロウっていつも『遠話』を掛けて来ると、この『もしもし』って言うんだけど、何か深い意味でもあるのかな?
【クロウ? どうしたんだい?】
【えっとー、ちょっとだけ相談があるんですけど……】
【ああ、良いよ。丁度今お茶休憩中だったから】
【それは丁度良かった! 実は学園で色々あって……僕魔法科のCクラスって言ったでしょう?】
【ああ、そう聞いている】
正直、今でも信じられない。
クロウが『ロード』クラスにならなかったら、一体誰が『ロード』クラスになると言うのだ……。
セレナも『ロード』クラスに入っていて、それはとても誇り高いけれど……。
セレナには申し訳ないが、クロウの方こそ『ロード』クラスに入るべき人材だろうと僕は思っている。
勿論、僕だけでなく、セレナ本人もそう自負していた。
本当に出来た娘を持って僕も幸せだ。
【えっと、合同練習でちょっとやり過ぎちゃって……先生から『ロード』クラスに編入してくださいって土下座されまして……編入してもいいですか?】
は? 『ロード』クラスに編入? は?
それは――今まで歴史の中で、初めての事じゃないか!
ライくんもデイくんも、クロウと同じクラスなんて、身が持たないと断っていたから、歴史に残る大事件を見れなかったのがとても残念だったのに――。
まさか、クロウがそう来るとは……。
いや、寧ろ当たり前と言えば、当たり前だったのか?
【勿論良いんじゃないか! 『ロード』クラスにはセレナもいるし、クロウのやりやすい環境になるはずだからね。それに……僕もお母さんもクロウが『ロード』クラスに入ってくれるのなら、とても誇り高いよ】
【本当ですか!? えっとお父さん? 僕、『ロード』クラスに入ると……エクシア家にとっても良い事なんですよね?】
この子から『エクシア家にとって』って言葉を聞ける日が来るとは……。
そうか、もうそんな事も話す歳になっていたのだな。
【クロウ―――、勿論だとも、セレナと共に二人で『ロード』クラスだなんて、一族の誇りさ】
【分かりました!!! お父さんありがとう!!! この話受けますね!!!】
珍しくあの息子がご機嫌になった。
そんなご機嫌な息子を見たのも久しぶりな気がした。