109.紹介
次の日、学園が終わり、また島。
「良し、今日は二人に紹介したい人達がいるから!」
とセシリアさんとリサを連れて、島の西側にいる研究地区へやってきた。
「まずこちらが魔道具隊のマリエルさんとペリオさん。ここの魔道具研究所の所長さんと副所長さんだよ」
まずはマリエルさんとペリオさんを紹介した。
「セシリアです」「アリサです」「マリエルです」「ペリオです」
皆お互いに挨拶をした。
「う~~~ん、セシリアさん? って何処かで私と会っていませんか?」
マリエルさんがそう話した。
「そう言えば、僕もセシリアさんに見覚えがありますね」
ペリオさんも。
「う~ん、私は基本帝国にいたので、グランセイル王国にはあまりいませんでしたが……そうですね、七年くらい前に教会の礼拝のために、王都に一度来ていますからその時かしら?」
「教会……? セシリア……? って!? 現聖女様!?」
「え!? うっそ!? 本当ですか先輩!!!」
流石はマリエルさん、名前だけで本人特定するのも早かった。
「ふふふっ、今はしがない料理人ですけど、そう呼ばれております」
そう話したセシリアさんに、マリエルさんもペリオさんも物凄い勢いで握手に迫り、握手した際は泣き出した。
ええ……セシリアさん凄い。
何事かと、魔道具研究員六人も顔を出した。
実は、以前王都魔道具ギルドに『機能無しブレスレット』を注文した際、雇ってくださいと寝返った六人だった。
王国は、彼らの辞任は痛手だったが、アカバネ商会から破格の引き抜き代金を支払って無事解決した。
今はマリエルさん込みで全員八名在籍している。
彼らもセシリアさんの正体を知り、泣きながら握手して貰っていた。
やっぱり現聖女様って凄いんだね。
次は隣にある『ポーション瓶』工場にやって来た。
この工場は基本的に幼い子供達が勤めている。
島に住んでいる従業員の子供さんだったり、孤児を数人引き取ってここで生活をしつつ働いて貰っている。
因みに、この工場の勤務時間はきっぱりと決まっており、午前中二時間、午後二時間と決まっていた。
これは子供達がやりたい事を優先して欲しいから、このような時間になっている。
そして、一切無理はせず、他にやりたい仕事がある場合は、そちら優先しても構わない事になっている。
『ポーション瓶』は再利用も可能なので、いずれ売り出す日まで少しずつ備蓄するだけで良いのだ。
だから急いで作る必要もないので、ノルマすらない。
子供達のお小遣い程度の稼ぎになっている。
お小遣い程度だけど、これが普通の町なら、普通の大人より稼いでいたりするのは今の僕には知らない話だ。
現聖女様のネームバリューは凄まじく、子供達も全員知っていた。
そこから数十分握手とハグの嵐が起きた。
孤児達には更に有名で、何でもセシリアさん自身が孤児出身だからだと言う事だった。
最後に来た場所は――
「あれれ? クロウくん、また可愛い女の子捕まえてきたの?」
そう……ナターシャお姉ちゃんだ。
「ナターシャお姉ちゃん、こちら紹介するよ。セシリアさんとアリサさん」
僕の言葉に合わせてセシリアさんとリサがペコリと挨拶した。
「こんにちわ、ナターシャと言います」
「す……凄い……何だか『アイドル』みたい……」
と、リサの感想。
「あら? 私はその正真正銘の『アイドル』ですわ?」
「ええ!? この世界にも『アイドル』っているの!?」
「あっ、そう言えば、アカバネ商会に『アイドル』ってポスター貼られてたわね」
「えっ!? お母さん、それ本当?」
そんな二人と見つめながら優しく微笑んでいるナターシャお姉ちゃん。
「くろにぃ、『アイドル』って!?」
「うん、こちらのナターシャお姉ちゃんは、アカバネ商会の世界初の『アイドル』として、今では大陸で一番有名人じゃないかな?」
「あ……、もしかして『プラチナエンジェル』!?」
「あら、それは私の通り名よ」
「本当に『プラチナエンジェル』って実在してたんだ!! 凄い!!!」
リサが凄く喜んでいた。
やっぱり『アイドル』って――女の子の憧れかも知れないね。
「貴方はどうして『アイドル』って言葉を知っていたの?」
「えーっと、前世でステージで歌って踊る人を『アイドル』って呼んでいたから……」
「前……世?」
「うん、ナターシャお姉ちゃん、こちらのセシリアさんは僕の前世のお母さんで、こちらのアリサは僕の妹だったんだよ」
「ッ!? 本当に!? 凄いわね……魂の記憶をそんなに濃く覚えているなんて……流石クロウくんと言うか、クロウくんの家族って凄いわね」
「えへへ、実は『アカバネ』も前世の名前で、商会の名前の由来だったりするんだ」
「あ~、なるほどね! それで『アカバネ商会』だったんだね。アカバネってそもそも初めて聞いた言葉だったからね」
「うん、ナターシャお姉ちゃん、今まで本当にありがとうね?」
「あら、今まで……なの?」
「うん? ううん、これからもお願いします」
「はい、私はクロウくんのためなら、何だってしてあげるんだから」
ああ……久しぶりにナターシャお姉ちゃんを間近で見た気がするけど、本当に綺麗な笑顔だ。
「あ……あの! あ……握手してください!」
リサが恐る恐る話して来た。
「ええ、リサちゃんなら幾らでもしてあげるわ。あ、ちょっとお願いがあるんだけど、ちょっと良いかしら」
「はい?」
それからナターシャお姉ちゃんはリサに握手で連れ出し、何処かへと消えて行った。
「ナターシャさん――ね? 凄く綺麗な人だね」
「うん。凄く優しいし、いつも凄い発想でアカバネ商会の一番の功労者だよ」
「そう……良い仲間を持っているのね」
その言葉に僕は自然と笑みがこぼれた。