高い壁
本日は3話投稿する予定です!
「ここだよ」
俺は訓練場に案内された。王宮の敷地内の外れに構えられているそこは、体育館なんて口が裂けても言えないくらい広い。多くの騎士が鍛錬を行っていた。
「団長!お疲れ様です!」
「お疲れ様」
やっぱりお前団長だったのか!俺を連れて騎士の間を通るウィルフレッドさんに全員が挨拶する。その後、俺に目を向けて驚いた表情をするのだ。
(おい、団長が女を連れてるぞ)
(スッゲー美少女だ)
(彼女か?)
(いやいやいや、あの団長だぞ?どんな貴族の子女に迫られても一切なびかない団長に彼女がいるわけないだろ。どうせスカウトじゃないか?)
(あんな美少女が剣を振るのか?見た所帯剣してないが)
いや聞こえてますけど!ウィルフレッドさん顔引き攣っちゃってるし。
「君たち、後で私が直々に指導してあげよう」
「すみませんでした!」
明らかに体を震わせて、集まってきた騎士たちはさっと散っていった。
「すまないね。明るいのはいいところなのだが、基本女性が来るところではないから気になってしまったようだ」
「大丈夫ですよ」
まあ実際は女っ気のない団長が連れてきた事に驚いていたんだけどね。それは言わないであげよう。
「はい。とりあえずこれ使って」
渡された一本の模擬剣。刃が潰してあって怪我はしないようにされていた。
「魔法を使っても構わない。じゃあ、本気でかかっておいで」
「え?」
同じく模擬剣を構えるウィルフレッドさん。いや、団長なんですよね?なんか嫌な予感がするから普通の平の騎士さんがいいんですけど。
「どうした?来ないのか?」
明らかに雰囲気が変わったウィルフレッドさん。うん、これは逃げられないやつだ。やるしかない。
「行きます!」
その瞬間、甲高い音が響き渡った。
***
街に見回りに出ていたところ見つけた明らかに強者の美少女。聞いてみるとまさかの記憶喪失だという。荷物も持っていないと言うし、不思議な点が多い彼女だが、ぜひ騎士団に入ってもらいたくて本部に連れてきた。
強者の匂いに、柄にもなく血が滾る。そして今。
(なんだこの速さは!)
凄まじい速度で打ち込んできた彼女に驚きを禁じ得ない。
(この速度、もしかしたら王国最速なのではないか?)
剣に自信があったウィルフレッドですらも、防御に回ってしまう打ち込みに自然と笑みが浮かぶ。
ーーこれを待っていたんだ。
攻勢に出るために一旦距離を取る。王国最強と名高いウィルフレッドの真価は魔法と剣を同時に使用するところにある。
〈風の刃〉
避けられる。そこは想定済みだ。だからすでに次を用意していた。
無詠唱で避けた先に繰り出されていた風の刃は、今度は剣で叩き斬られた。
「はぁ!?」
思わず声が出る。魔法を剣で叩き斬るなんて、非常識なことこの上ない。そんな芸当ができる者をウィルフレッドは聞いたことなかった。
しかし、口角が上がる。
自分では勝てないと分かってしまう。だが、その感覚が心地よい。絶対に勝てない相手。
ーーやっと見つかった。
ウィルフレッドは新たな目標に向かって最高の魔法を放った。
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