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6リップル マリーシャ、出足くじかれる。

 マリーシャ結界が張られたドキドキな森の動物スポット、宿屋「リップル」。


 ――旅立ちの朝だ。

 窓を開けたい、太陽の光を浴びたい。

 そんな、爽やかな朝を迎えたいが、真っ暗だ。

 オルファンの朝は、エキセントリックに毎朝起こしに来るキリンの阻止に、バツ印に板を打ち付けた窓から、クギを抜くところから始まる。


 ここ数日間、仲睦まじくワニを締め上げていたアナコンダを見なくなった。

 リハビリに毎晩、剣をあれだけ振り回していれば流石に勘付かれたか。


 オルファンは、旅の身支度(みじたく)を始めた。

 彼女(マリーシャ)のおかげで、怪我もすっかり治癒したが、ここで二週間余りも時間を浪費(ロス)してしまった。

 だが、これはこれで得難い経験をしたと考えることにした。


 結局、マリーシャは、秋までの三か月間程の間、オルファンに付いていく事になった。

 宿屋の娘にも夏休み。

 ヤッパリ・ドラゴンとかの噂を信じてしまうのは、ずっと森の中で育ち外の世界を見せなかったから。

 そうも反省しながら、お母さんとおばあさんは、サマーキャンプと銘打って許可を出した。


 マリーシャの帰路については、たまに手紙のやり取りがあるという、父親の元へ送り届けることで話がついた。

 何やら家族で取り決めた、特別な狼煙(のろし)のようなものを上げれば、父親は空からでも、如何様(いかよう)にも現れるそうだ。怪盗のような父だ。


 オルファンが二階から降りてくると、エプロンを付けたマリーシャが、丁度朝食に呼びに行くところだった。


「おはよう、オルファン。いよいよ今日ね。だからお母さんがご馳走用意したの! 私も準備万端!」


 笑顔いっぱいのマリーシャは、声を弾ませて言う。

 オルファンは、宿屋の女主人とも打ち解けていて、皆が揃う機会あれば家族同様にキッチンで一緒に食事をする事になっていた。


 そこは、狭いながらも、朝日が差し込むダイニングキッチン、壁には木製お玉やバケツ、ナイフといった様々な調理器具がぶら下がる。

 パン焼き窯や、小麦粉収納用の戸棚も据置かれ、天井からは暖炉の煙で(いぶ)されたキジの肉、干された塩漬けの魚が吊り下がっていた。


 朝食は、ライ麦バゲットとスモークサーモンのクロックムッシュ風。

 山羊のミルクで作ったチーズ、マッシュポテトオムレツ。野菜煮込みスープ。

 クマの右手がさく裂したハチミツ入りヨーグルト。ザクロジュースもあった。

 温かな湯気を上げて、食卓テーブルの上、木製の板や大皿に盛られていた。

 また、リンゴ、梨、プラム、など果物もあった。


 オルファンは思わず感心した。

 ……よく、これだけ用意できたもんだ。マリーシャ母(メリナ)はこの辺りでよほど顔が利くのだろう。


「!……」

 そこに何やら見慣れない、男の姿を認めた。

 いつもの食卓に、椅子にどっしりと腰掛けたその男は、オルファンと目が合うとすぐに声を掛けてきた。


「いよっ! アンタが噂の名剣士さんかい? 聞いてるぜー、今日、宿を立つんだってな、残念だなーせっかくこうして縁が出来たってのに」


 ワイアットがピッっと二本指敬礼をした。お調子者がやりがちなジェスチャーだ。


「誰だ、アンタ」

 オルファンはもやっとした、抵抗感を覚えた。

 彼とは対照的に冷静沈着、少々頭が固い。初対面で馴れ馴れしくされるのは好まない。


「俺はワイアットだ。稼業はこれよ」


 素早く右のガンベルトから銃を抜き、ガンスピンから、一瞬構え、華麗にホルスターキャッチを披露、瞬く間だった。

 ガンマンお約束の妙技だが、詰まるところ説明が手っ取り早い。


「さあ、食べましょう、オルファンも座って」

 メリナが鍋を置きながら、気にも留めない様子で着座を勧めた。


 彼の向かい側に座るオルファン。奴が宿泊客ならここには居ないはず。


「――紹介するわ、彼、しばらくウチで働くことになったの、ワイアットよ。男手が足りないから、色々と助かるわ」

 そう、メリナが料理を皿に取り分けながら、物柔らかに言った。


 皆との食事の後、オルファンは滞在期間分の宿泊費が足りない事に気づく。

 メリナは差額分は必要ないと言うのだが、そこはオルファンの律儀さである。

 (まかな)う為にワイアットと仲良く(・・・)、屋根葺き、煙突掃除をするのだが――。


 ――マリーシャ、出足くじかれる。 6リップル。

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