4リップル マリーシャ、旅の相談をする。
マリーシャ・リップルは、大きな瞳の、三つ編み髪の少女。
窓の外に沈む夕日を穴のあくほど見つめ、ブラックホール形成に励みながら、伝説のドラゴンへの想いを馳せて考えた。
普通、この手の物語って、三つの願いのセットじゃない?
叶う願いが一つだけって、森の学校に通う友達に言うと、
「――もし、ドラゴンに会えたら、周辺五キロは封鎖して、部外者にただの布をお願いされないようにしなきゃね」
そう、気の利いたアドバイスをくれた。
そうね、気を付けないと、マリーシャはただ頷いた。
マリーシャは、おばあさんの『年のたけた者の英知』に頼って相談した。
世界を色々見聞きしたい。旅をしてみたい。
もし伝説のドラゴンに会えたらラッキーだ、そんな意気込みを伝えた。
「そうだねえ……まずは仲間を作りなさい」
おばあさんは挽いた小麦粉を、平らなカゴでふるいにかけながら言った。
――おばあさま、助言の前に、何かさとす事があるような。
孫娘が大手を振って家出する、と言っている。
そこは、あの風来坊父さんの母親だった。人智を超えた理解者だ。
お母さんにも相談すると「もっと大きくなってからね」と秒で返された。
森の幼馴染に声をかけてみた。「いやいやドラゴンて」
と、本気にされない。
相手にしてくれたかと思えば、昆虫採集の網や、ツルハシを持って集まってくる。
森の動物たちを、ブレーメン音楽隊のように引き連れて行くのも、違う気がした。
彼女は、もっと物語に出てくるような、自分の成長を伴う冒険らしいことをしたいのだ。
ある日の夕方、冒険者オルファンがヨレヨレにやってきて、ドリトン先生の治療を終えて訊ねると、ヤバメ・ドラゴンを探しに行く旅の途中だと言った。
マリーシャは、キター! わーい! と彼の手を取り、全力でぶんぶんして喜んだ。
一緒に連れてってくれるよう、目を輝かせて熱心にお願いする。
「一緒にね、一緒に連れてって! お願い冒険者様! 私、夢を叶えたいの。ドラゴンに会ってお話もしたい! きっと世界のこと、色々知ってるでしょう?」
骨が外れそうに意識が遠のくオルファンは、その時、断るという選択肢はなかったようだ。
「そんな約束したかなあ」
後で思い返してもみるも、動物たちが一斉にうんうんと頷くし、彼女には怪我の療養中、とても世話になった。剣士ならではの心意気も恩義もある。
オルファンは止むをえず、旅の同行を承諾した。
どうせ親御さんが易々と許すはずもない。ここは娘に鉄球を付けてでも、ぜひ引留めていただきたい。――内心そう思った。
しかし、考えてみれば、屈指の動物使いのようなマリーシャの特技は、この先の旅に役立つかも知れない。
彼女には、本当の自分の目的は言わないでおいた。
オルファンの大望は、剣で世界一の名声を実力で得ること。
それには、どこぞの王様に宮仕えするより、ヤバメ・ドラゴンを倒すことが手っ取り早い。
彼は、地球平面説だの、地の果てが海だの滝だのは信じてないし、ただ、真しやかな竜の伝説に、これまで沢山の冒険者が命を落としているのは広く聞き及ぼしところだ。
――退治する大義名分、名を揚げるには十分……だけど火吹き竜って、険しい岩肌、荒い山の洞窟なんかにいるんじゃなかったっけ?
――マリーシャ、旅の相談をする。 4リップル。