2リップル マリーシャ、旅の用心棒を求む。
マリーシャ・リップルは、大きな瞳で、窓の外に沈む夕日を見つめながら思う。
いつか、あの地の果てまで、気合入れて行くのだと。
伝説のヤバメ・ドラゴンに会って、一つの願いをカンストまで増やして願い事をしようと。
彼女は、森深い小さな宿「リップル」の一人娘。
――大地の果ては海で。
世界は四頭の象が支えるお盆の上にあって。
その象たちは巨大な亀の甲羅の上に立っている。
いつか話した大人のおとぎ話を信じる、夢見がちな宿屋の少女。
「……でね。オルファン、多くの冒険者は、世界の果てがそんな事になってるわけないって」
冒険者、オルファンの身体の包帯を替えながら、マリーシャは屈託なく話す。
「それを証明しようと、世界の端にたどり着くとね、皆、落ちてしんじゃうんだって」
「君のおかげでだいぶ良くなった。ありがとうマリーシャ」
「でも運よく、世界の端っこら辺をウロウロするドラゴンに会えると、その知恵と勇気が称えられ、望みを一つ叶えてくれるんだって」
「……ここに来てしまって、一時はどうなる事やらと思いもしたが」
マリーシャの話をやんわりかわしながら、オルファンは考えた。
この十日間は過酷だ。
娘はよく働き、気立てよく気にしなければ、至って快適な宿だ。飯も美味い。
問題は……自分に集まる好奇な視線。
夜となく昼となく、代わる代わるに窓から動物が部屋を覗き込むのだ。
常に白雪姫になった気分を味わう。
色鮮やかな小鳥たち、リス、モモンガ、ウサギに心が和む。
ゴリラの唐突なドラミングも偶になら余興として我慢する。迷惑には変りないが。
あとは、ヒツジやワニ、ガチョウがやかましく、特にワニは食おうとしてるらしく、気が付くと床で口を開けている。
たまにデスロールの練習をやっている。
ハリネズミが寝てる毛布の上を転げまわって遊ぶので、これが痛気持ちいのかわからない。
第一球のモーション振りかぶって投げてみたい衝動に駆られる。
朝になると、窓に首を突っ込んだキリンに、顔を舐められ起こされる。
内カギを開けてるのは、たぶんあそこでトグロを巻いているアナコンダ。
全快したら輪切りにしてやろうと誓う。
動物の生態分布とかまるで無視なこの森は、さながらマリーシャが作り上げた別世界のようで、動物好きの旅人にはたまらない呼び物になるだろう。
――しかし、離れたい。早く大地の果てへ旅を続けたい。
マリーシャは包帯を替え終わると「でーきた」と楽しそうに言って、薬箱を持って、部屋を出て行った。
この後、お湯の入った桶をえっちらおっちら下げて持ってくる。彼女の日課だ。
とにかくオルファンにマメに尽くした。
「オルファンは、立派な剣士様だもの、心強いわ、一緒に連れてってもらおうっと」
彼女は地の果て、伝説のドラゴンに会い、どうにかお墨付きをもらって、願い事を叶えてもらう。
二人の目的は、ドラゴンに見つけるという点では一致していた。
しかし、ヤバメ・ドラゴンの叶える願いとは、一人一つなのか、力をあわせた者同士で一つなのか、そこがわからない。
……後で揉めない?
――マリーシャ、旅の用心棒を求む。 2リップル。