8話
長めです。(当作品比)
アルフレッド主観の話は、現実と全く異なるものだった。
「と、まあこれが私がリエルに婚約破棄を宣言した理由のようなものです」
「……。お主、ここまでアホだったのか?」
「……。えっと、流石にそれはないかと……」
「……」
「……」
アルフレッドの証言に全員呆れた目を向ける。最後の二人に至ってはラーゼフに口止めされているからこそ何も言わないが内心では、
(こいつ、マジでアホなのか? 普通に考えて辻褄が全く合わないし、おかしいって気づくだろ。しかも殆どエレノア嬢の証言がそのままじゃないか。いくら殿下と言えど、流石に学園入学前はここまでのアホではなかったはず。ああ、あれか。恋愛脳っていうやつか。けど王太子として流石にそれは……)
的な事(これより10倍酷い)を言いまくっている。
ちなみにギデオンはここから更に発展し、エレノアに辿り着き、アリシアとの違いを比べて今は亡き妻を賛辞している。ここまで発展できるのは流石、エルミナ王国屈指の愛妻家と言うべきか。
そんなラーゼフ達の反応にアルフレッドは怒った。
「な、私がアホだと言うのですか! 私は……!」
「そんな簡単に普通、恋人とは言え他人の言う事を疑わないのか? 王太子ともあろう者が。貴族でもそんなことは分かっているぞ」
「恋人の事を信じてはいけないのですか! エレノアが嘘をつくはずが無い!」
ラーゼフの言葉にアルフレッドはエレノアを侮辱されたと思い込み、激昂した。
「信じるのと盲目的になることは違うのだ! 時には甘え、時には支え合い、信じ合うのが恋人と言うものだ。信じているからこそ、嘘を裏切りと思うな。人が嘘を吐くのには様々な理由が有る。守るため、騙すため、中にはただの愉悦のため。そもそも儂は一言もエレノア嬢が嘘を吐いたなどと言っておらぬぞ。嘘を吐くはずが無いと思い込んでいるお主が一番信じていないのではないか?」
「っつーー 」
アルフレッドは反論できない。なぜならラーゼフの言葉が正論そのものだと感じてしまったから。
アルフレッドにも無意識にではあるが自覚はある。『疑う』を、『嘘を吐く』に置き換えてしまっていたことを、意識のどこかで信用してないと言うことだと証明してしまっていた自覚が、
その自覚がラーゼフの言葉で心の表層に浮き上げさせてしまった。だからアルフレッドは反論できなかった。
そして、そんな様子のアルフレッドを見たラーゼフはさらにアルフレッドを煽る。
「ほれ、反論もできん。お主も心のどこかで嘘を吐いているなどと思っておったのだろう。その心を胸の奥底に押し込んで自らにエレノア嬢は嘘をついていないと言い聞かせた結果、お主は盲目的なったのだ。それにもし、エレノア嬢が嘘を吐いていなかったとしても、エレノア嬢自身が間違っている可能性もある。勘違いをして、悪気無くお主に話した可能性が。王太子なのだから自ら調べろ。その話が事実かどうか。そしてもし、事実だった場合は一番状況を悪化させない行動をとり、事実でなかった場合はエレノア嬢の勘違いを訂正しろ。その行動が貴族として、王族として必要な物の一つだ」
「エレノアは……」
アルフレッドは俯き、暗い声で話す。
「なんだ?」
「エレノアは、エレノアは、言ってくれたんだ。身分に捕らわれる必要は無いって、王太子で有る前に一人の人間だって! 王太子だからと言って自由にしてはいけないわけじゃないって、だから、好きな人と結ばれないのは、幸せになれないのは間違っているって! 私はたとえ廃嫡になったとしてもエレノアと結ばれます!」
「馬鹿者!何を考えておる! 王太子をやめるだと! お主はこの国を滅ぼす気か! お主は何を考えて王太子となった。国を滅ぼすためか? 違うだろう。民を苦しめる気か! 違うだろう。王太子になったころのお主は何と言っていた。『国を今以上に繁栄させる』と言っておったな。どの口が言っておる。私情に国を巻き込むなとは言わんが巻き込むのなら迷惑をかけるな。国の上層部がへまをして被害を被るのは誰だと思っておる。民だろう。色恋の一つや二つで国を揺るがすな。先程も言ったがしてはならないとは言わぬ。だが、立場有るものでする権利が有るのは力が有るものだけだ。力もないのに、役割を果たしていないのに良い結果を求めるな。許されるのは自分がするべきことを十二分果たしている者だけだ」
「っつーー」
ラーゼフは、アルフレッドの頬を打った。それに痛みに慣れていないアルフレッドは思わず涙目になり、歯を食いしばる。
アルフレッドにとって打たれるというのは初めての経験だった。
自分がしなければならないことを出来るだけ減らし、負担を最小限にしてくれる優秀な婚約者、そして側近。それらに劣等感だけ抱いて、リエルたち程の努力をしてこなかったアルフレッドは、ぬるま湯につかり切っていたアルフレッドは人から向けられる暴力に慣れていなかった。
アルフレッドが怠ってきた努力には武術、魔法も入っている。武術は何度か剣を振り、型を覚えている程度。魔法に至っては高い魔力に任せた威力と射程のみで基礎魔法陣しか使えない。
そんなアルフレッドが悲鳴を上げなかったのはある意味褒められたことなのかもしれない。(そもそも客観的に全く褒められないが。)
だが、アルフレッドが我慢したのもつかの間ーー
「血筋がなんだって言うんですか! 王族に何て生まれなかったら、父上の息子になんて生まれなかったら僕はエレノアと障害なく結ばれたって言うんですか!」
「アルフレッド! お主はまだ恵まれておるぞ。お主は街に出て見てみたか? 儂や歴代の王の力不足でまだ消し去れていない貧困に苦しむ人々を。お主はこれまで飢えた者を見たことがあったか。すぐ治るような病気で死にかけている人々を見たことが有ったか」
「ありま、せんけど」
「ならお主に血筋の事でとやかく言う権利は無い。人間として生きられているだけ、不自由のない生活を送れているだけ世界的見ればまだましだ。世界には人としての尊厳を踏みにじられ、人として扱われない者だっているのだぞ。軽々しくそのようなことを口にするな。それは厳しい環境の中必死に生き延びている人々への侮辱だ。この国の、この世界にいる一国の王として庇護するべき民への侮辱は許さん」
アルフレッドの発言にラーゼフは、激怒した。表面上は力の無い者を侮辱したことで怒ってはいるが
『父上の息子になんて生まれなかったら』
の部分で特に怒っている。
この言葉は16年前、アルフレッドを産み、産後死んでしまった体の弱かった王妃の事を侮辱しているも当然の言葉、王妃を愛していたラーゼフにとって地雷も当然の言葉だった。
ちなみにエレノアが養子になることを、家督を継ぐことを特例で許されたのは、ラーゼフが伯爵たちの話を聞き、王妃と同じような理由で死んでしまうかもしれない。自分たちと違って今度は母親だけでなく子供も命を落としてしまうかもしれない。そう考えた、ーー伯爵とその正妻たちの中に自分たちの姿を見てしまった、ーーという背景があった。
ラーゼフの発言について。
あくまでこの思想は小説の中のものです。絶対正しいとは言いませんし、間違っているとも言いません。また、違う思想を持つ方を否定するつもりも有りません。作者自身もこの思想を持っていると言う訳では有りません。
なんか言いたくなりました。
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