6話
「自由、に?え?え?えーと、え?」
ラーゼフの突然の言葉にリエルは軽いパニックに陥っていた。
それを見かねたギデオンがラーゼフに問いかける。
「陛下。リエルと殿下の婚約を解消するんですか?」
「ああ。これが一番いいと思ったからな。して、リエル嬢。好いている者は居るか?罪人やこの国と関係の無い者は流石に無理だがこの国の未婚の男なら婚姻を結ばせられるぞ?より取り見取りだ」
「へ、へ、陛下!あの、一旦移動して落ち着かせていただいてもよろしいでしょうか」
「あ、ああ、一旦落ち着け。取り合えず別室行って来るがよい。退室を認める」
「は、はい」
リエルはバタバタとソファーから立ち上がると扉に手をかけ思いっ切り内側に引いた。
どさっーー
「わっ、」
「きゃっ、」
扉に身体を寄り掛からせていたアルフレッドとエレノアが部屋になだれ込む。
「お主ら、何をしておるのじゃ」
ラーゼフがアルフレッド達に呆れたように、いや、呆れた声色で問いかける。
ちなみにリエルはなだれ込んで来たアルフレッド達を見てパニックは収まり、--リエルはアルフレッドがよく騒動を起こすのでアルフレッドが何かするとすぐ冷静になると言う妙な特技?を持っている。--冷静になっていた。
「いや、あの、えっと、」
ラーゼフの覇気を伴った問いかけに、アルフレッドは焦ったような反応をし、結局……
「と、扉に耳をつけて中の話を聞こうとしていました」
言い訳を思いつけず、素直に自分がやっていたことを告白した。
プライドの高いアルフレッドだが、流石にラーゼフの覇気には耐えられなかった。
と言ってもラーゼフがかけたのは普通の人間が委縮するレベルの極めて軽度な覇気だったのだが。
そんなレベルで素直に告白するアルフレッドのプライドはただ高いだけで強くない。
アルフレッドは目下の人間に対しては傲慢だ。自分の立場を開け散らかし、威張り散らす。
この国でアルフレッドの目上に立つ人間は本当にごく一部に限られている。両手、いや、片手の指で数えられるほどの数しか存在しない。あくまでこの国の中の話だが。
そんなアルフレッドでも、いや、だからこそ、目上の人間ーーこの場合は国王ーーの言う事は素直にでは無いが一応聞く。と言っても内心では不満たらたらであるが。
そんなアルフレッドのした行動にラーゼフはとても怒っている。
「お主は……。王太子たるものどうしてそのような行動をとるのだ。正しく育てたつもりなのだが……。取り合えず、今後は一切そのような事をするな。と言うかそろそろ庇いきれん。特にリエル嬢に婚約破棄を宣言した件は、下手をすると国が滅びることのきっかけになるかもしれないのだぞ」
今までどうしてアルフレッドはこのような行動をして許されていたのか。
その理由は5年前に有る。
5年前、エルミナ王国では魔力が高い者程、容体が悪くなるという病が流行った。それで王侯貴族が多く死んだ。その中にはリエルの母、アリシアも含まれている。
エルミナ王国の王侯貴族の中でも特に魔力が多い、王位継承権を持つ王族の中で今、王位を継げる状態にあるのはアルフレッドのみ。
今、アルフレッドが王位継承権を失うと国は、薄っすら王家の血が流れている者などから新たな王太子を選ぶことになる。それは国の内乱を引き起こす原因になるかもしれない火種である。
王の有能さより国の安定を優先したラーゼフは将来、アルフレッドを支え、国を動かしていくために、有能な側近を育てることにした。その代表格がリエルである。
その、アルフレッドに仕え続けて来たリエルがアルフレッドに婚約破棄を宣言された。それはリエル以外の側近候補からすると、自分もいつか理不尽な理由で捨てられるのではないか、と言う不安を煽るものだった。
中には国を見限り、他国へ逃げる者も出るかもしれない。そして、それに連れられて逃げる者もいるかもしれない。そしてそうなった場合、エルミナ王国が迎える未来は滅びの可能性が高い。
ラーゼフのアルフレッドへの叱咤はまさに正しい事である。
不備や質問、矛盾が有る場合、お気軽にお尋ねください。
『この作品面白い』や、『更新が楽しみ』と思っていただけると嬉しいです。ポイント評価、感想を頂けると更新速度が上がるかもしれません。誤字、脱字報告をして頂けると助かります。