5話
「エレノア嬢とアルフレッドは外に出ておれ」
「ですが父上……!」
「これは命令だ。分かったらさっさと出て行け」
「っく……。はい」
アルフレッドは悔し気に引き、エレノアと連れ立って部屋を出て行こうとした。
だが……
「陛下。アル様は何も悪くありません。悪いのは私なんです。私がアル様を好きになってし「不敬だぞ。エレノア嬢」
「っく。レイド様。私は……」
「私は君に名前を呼ぶことを許可した覚えはない。気安く呼ばないでいただこう。それにいくら恋人だと言っても人前で殿下の事をニックネームで呼ぶな。殿下が許可していたとしても王家を侮っているということになる」
「レイド。エレノアは未来の王太子妃だぞ。不敬だ」
「アル様……」
エレノアは目にハートを浮かべてアルフレッドを見る。
「殿下。伯爵家の娘を公爵令嬢のリエルを差し置いて王太子妃にするつもりですか」
レイドは溢れ出す殺気を止めることが出来ない。
シスコンなレイドは伯爵ごときの令嬢にリエルを貶めさせる気は毛頭ない。
しかもその令嬢は気安くレイドの名前を呼んだ。それをレイドは許すつもりはない。
名乗ってもいない相手に勝手にファーストネームを呼ばれるのは誰でも不快だろう。それも自分の愛する妹から男を寝取った女だ。それが自分に馴れ馴れしくしてきたら反吐も吐きたくなるのも当たり前。どの面しているんだと言う話である。
「レイド。良い。とりあえずアルフレッドとエレノア嬢は黙って部屋を出て行け」
「くっ、はい。エレノア、行こう」
「っあ、はい。アル様」
アルフレッド達が部屋を出て行くと後にはラーゼフ、ギデオン、レイド、リエルが残った。
ラーゼフ達に付いていた近衛騎士は部屋の外で待機している。アルフレッド達は近衛騎士に睨まれながらも扉に耳をつけ、少しでも部屋の中で話している事を聞き取ろうとしていたりする。
部屋はほぼ完全な防音になっており、どんなに頑張ろうと聞こえはしないのだが。
ーーただし魔法を使った場合は別である。
アルフレッドにも流石に魔法はまずいと言う意識は有るようで魔法は使っていない。
まあどうせ恋愛にかまけて碌な鍛錬もしてこなかったアルフレッド達には、盗聴などの難易度の高い魔法は扱えない。
そんなアルフレッド達が生身の技術的にもそんな高い技術を持っている訳が無く、無駄な事しかしていない。
「で、リエル嬢。何が有ったのだ?」
「えーと、実は……」
◆◆◆◆
リエルはアルフレッドに関する事、アルフレッドに関する事、心当たりを、リエルが知っている限り、全て嘘偽りなく話した。
「陛下。これはあくまでも私の主観でしか有りません。どう始末するかは陛下にお任せして頂いてよろしいでしょうか?」
「ああ。大丈夫だ。もう決めた。まず……リエル嬢。そなたをこれまでアルフレッドの婚約者として王家に縛り続けていた事を謝罪しよう」
リエルが正式なアルフレッドの婚約者となったのはリエルが10歳の頃だ。アリシアが流行り病で死んだ暫く後に正式に婚約が決まった。
本来は正式に決まるのはリエルが12歳、アルフレッドが13歳の時だった。
だが、リエルが何故か魔法が使えなくなり、婚約を無かったことにされると焦ったギデオンが婚約を早めた。それで10歳で婚約することになったのである。
リエルがアルフレッドと婚約することを決められたのは、リエルが3歳の時。
3歳からずっとリエルはアルフレッドの婚約者に、しいては王太子妃、王妃になることが決まっていたので、厳しい王妃教育が課せられていた。
普通の人間ならば早くて1年未満、優秀な人間でも数年もすれば諦めるような過酷な教育を諦めず10年以上受け続けたリエルは学園でも屈指の才女として名を馳せている。
つまりリエルは10数年間もの間王家に縛られ続けていたのだ。それをラーゼフは今謝罪している。
それは何故か。アルフレッドとの婚約を維持するのなら謝罪する必要が無い。リエルは王太子妃になり、王妃教育で培った力を国のために生かすだけだ。
それはつまり……
「え?」
「そなたが王家に捧げてくれた十数年間、その時間を無駄にさせてしまった。すまない。リエル嬢。そなたに非は一切無い」
「それは、どういう、」
「リエル嬢。もうそなたを王家の軛から解放する。アルフレッドとの婚約を解消し、自由に生きるがよい」
一切ヘルグナー側に非の無い婚約の解消。それがラーゼフがリエルに出来る贖罪の一つだった。
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