4話
その令嬢も言い方が悪かったと言えばそれまでだ。だが、貴族社会ではそのような甘いことを言っていては生き残れない。
エレノアの受け取り方は彼女としては珍しく普通だった。大体の人間は
『ふん。リエル様に逆らうからこんなことになるのよ』
などのと言われれば、リエルが指示したと勘違いするだろう。
その令嬢はリエルに盲目的になるあまり、リエルに不利益になることをしてしまった。
加えてその令嬢はまだ15歳。婚約者もまだいないため卒業パーティーに来ていなかった。リエルの学校での取り巻きもほとんどが15歳以下、16歳の卒業生である取り巻きも運悪く用事や体調不良で休んでいる。(偶々なのかは分からない)
この場で出てきてリエルの無実を訴えるほどの取り巻きは居なかった。
それはつまり、この場でリエルの無実を証言する人物がいないことを示している。
「本当に無いのか?」
「はい。私には神に誓ってでも心当たりが有りません」
「ふん。お前は本当に愚かだな。お前の悪「アルフレッド。何をしておるのだ」
アルフレッドの言葉を遮り話したのはギデオンとレイド、近衛騎士を従えたエルミナ国の国王ラーゼフ・エルミナだった。
◆◆◆◆
「父上。ご報告が」
学園の卒業パーティーが開始する15分程前、レイドは国王から受け取った書状を持ち、ギデオンの元に向かった。
書状には国王でさえアルフレッドがやらかす寸前にキャッチした情報について書かれている。
その内容はアルフレッドがリエルを学園の卒業パーティーに呼び出し、何か良からぬことをしようとしており、その良からぬことが恐らくリエルに対する婚約破棄だというものだ。
「あの若造。リエルを貶めようと言うのか」
「ち、父上。まだ確定した情報では有りません」
ギデオンが席を立ちあがり、部屋の隅に置いてある剣を取ろうとしたところをレイドが制止する。
一見ギデオンのみ怒り狂い、レイドは冷静に見える。だが……
「流石の私達でも現在一人しかいない王位継承権を持つ者を殺すのはまずいです。しかも確定していないとなれば下手に罪を被せられます。斬るのはちゃんと有罪判決に決まってからにしましょう」
レイドも相当怒り狂っていた。
まあそれも当然だろう。ギデオンは愛する妻を、レイドは敬愛する母を5年前に亡くした。そのアリシアによく似ているリエルが溺愛されるのも当然だろう。(アリシアが生きていた頃でもあまり溺愛度合いは変わらない。)
「まあまず、学園に向かいましょう。陛下とそこで落ち合う事になっています」
「ああ。分かった」
◆◆◆◆
「父上! どうしてここに?」
アルフレッドがラーゼフに声をかける。
「それはお主が一番わかっておるだろう。もう一度聞く。何をしておるのだ」
「何って、この女に婚約破棄を……」
「この女とはなんだ! リエル嬢は公爵家の令嬢なのだぞ。いくらなんでも言って良い事と悪いことが有るだろう」
「っ、父上! リエルは私のエレノアを虐めたのです。私はそれに対して正当なまでに・・・」
「もういい。取り合えずここを移動する。学園長、部屋は空いておるか」
「は、はい。こちらです」
隅で様子を見ていた学園長がラーゼフに呼ばれ、慌てて出てきて空いている部屋に案内する。
関係のある面々は学園長とラーゼフの後に続いて講堂を出て行った。
◆◆関係者が出て行った後の講堂(とある生徒達)◆◆
「なあ、さっき、ヘルグナー公とレイド様の後ろに何か見えなかったか?」
「いや、見えなかった。けど、恐ろしい殺気が……」
「お前、殺気とか感じられんの?」
「一応俺も近衛騎士志望だからな。文官志望のお前と違ってそれなりには鍛えてる」
「ってかあれ、殺気だったんだな。俺には虎かバケモンの何かと思えたよ」
「俺、今日ほど騎士になろうとしたこと後悔した日は無いかもしれないわ。中途半端に鍛えてるからそれなりに分かるんだよ。やばいのが。で、それで絶対に叶わないって理解しちまうから本当にどうしようもない」
「お前もそれなりに大変だなぁ。俺はただやばい、怖いってだけだよ」
「ってかお前、恐ろしいもん感じられてるだけまだましだぞ?殿下は多分、何を出しているのかにも気づいていなかったからなぁ」
「そうなのか?」
「もし気づいてたら絶対騒ぐだろ。『不敬だぞ。』とか言ってさ」
「あー。言いそうだな」
「ヘルグナー公達もあれ、絶対分かってやってるぞ。殿下が気づかないって」
「そこまで考えてんの?」
「しかもリエル嬢と陛下には絶対気づかれないようにコントロールしてた」
「まじか。すげーな。ヘルグナー公爵一家」
「ヘルグナー公とレイド様のリエル嬢への溺愛は有名だからなー」
「ははは」
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