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さーいご


放課後になったといっても、まだまだ、明るい商店街。もう、夏だし、日が延びたなぁ、なんて、まったり考えながら、三人並んで歩く。


左から、俺、神、二名さんの順番で横並び。


学校を出るまでは、神、俺、二名さんの順番だったのだが、何故か、学校を出た辺りから、神が俺と二名さんの間に割り込んできた。で、現在に至る。


神の意図不明な行動だが、得に問題はないし、なにも言わなかった。二名さんも「なんのこっちゃ?」首を傾げていた。


二名さん宅を目指す道中。商店街の外れにある寂れた公園を通り過ぎようとした時だった。


「ほーたーるのひーかぁーり……まぁどぉのゆぅきぃー……」


どこからともなく哀愁ただよいまくるめろでぃーとぎぃぎぃと金属の軋むような音が聞こえてきた。


心なしか、聞き覚えのある声。それに、この金属の軋むような音はブランコか?


ぐるっと公園の中を見渡して見ると、公園のただ一つの遊具であるブランコが淋しげにふらふらと揺れていた。


見覚えのある人影。


「はーらーみー!そろそろ、おうちに帰るぞー!」


「えー!もっと、あそぶー!」


「ダメだよ。みっきー。おとーさんの言うことはちゃんと聞きなさい」


「うー……。わかったよー」


名残おしげにはらみはブランコから降りると、小走りにこちらに近寄ってくる。


「はははー。はらみはやっぱりいい子だなー。おとーさんがなでなで、してあげよう。なでなでー」


「うへへー」


「あー、みっきーばっかりずるいー!おかーさんもおとーさんになでなで、してもらいたいー」


「おかーさんはダメー!今は私がなでなでしてもらってるんだからー!」


「はははー。おかーさんは夜中たっぷり可愛がってあげるよー」


「もう、やだ!おとーさんったら!えっちなんだからん」


はははー。


「……って!なんでやねんッ!」


「うわっ。どうした、はらみ?急に大声だして」


「どうしたもこうしたもないわよ!なんでこんなアットホームな家族やってんのよ!」


「いや俺達家族見たいなもんじゃないか」


「そうだよみっきー」


「い、意味わかんないわよ……!」


「まあ、まあ、そういわずにさ。一緒に帰ろ?」


はらみに手を差し延べる。


「そ、そうね……もしどうしても私と一緒に帰りたいっていうなら――」


「ああ、俺ははらみとどうしても一緒に帰りたいな」


間髪いれずに言ってやる。


はらみは差し出した手と俺の顔を見て、それから二名さんの顔をみる。二名さんは優しく微笑んでいた。


「……し、仕方ないわね……一緒に帰ってあげるわよ。で、でも!勘違いしないでよ!別に私はあんた達と一緒に帰りたいわけじゃないんだからね!ど、どうしてもって言うから仕方なく……わ、わかった!?そこんとこ勘違いしないでよ!?」


そんな憎まれ口を叩きながらはらみはしっかりと俺の手をとった。


素直じゃないなと思いつつその手を握り反した。


そっぽ向きこちらをちらちらと伺っているはらみ。その横顔は夕陽で赤く染まっていた。







「なあ神様」


俺が呼び掛けると神は返事はせずにこちらを向いた。


「俺さ、神様と出会う少し前のことなんだけど。その時な『神様』って言う存在が凄く、嫌い――いや、憎くて、憎くてしかたがない時期があったんだ」



この世は理不尽の塊だ。


いやそんな一言で済まされないほどに俺達が生きる世界は残酷だ。


不運は重なる。


悪い奴らは高らかに笑う。


どんなにいい奴も不幸な目にあう。


努力は報われない。


願いは叶わない。


夢は破れる。


自分のための世界じゃない。


どんなに足掻いても状況は改善されないし、どんなに願ったところで奇跡なんか起こらない。


そんな日々を送っていた。


俺に心配をかけまいと平気な顔で笑うあの娘。


自分独りで抱え込んで誰にも頼らず気丈に振る舞ってみせるあの娘。


その娘達が少しずつ確実に壊れて逝くのを俺はただ指を加えて見ているだけだった。


なにも出来ない。なにもしてあげられない。力になってあげられない。支えてあげられない。


俺は無力だ。どうしようもなく。道端に転がっている石ころとなにも変わらない。


だから、


だから、俺に出来たことは一つ。


ただ、神様に祈りを捧げることだった。


助けてあげてほしいと、


ほんのちょっとでいいから幸せにしてあげてと、


俺はどんな目にあってもいいからと、


毎日、毎日、来る日も、来る日も


だけどやっぱり願いは届かない。


状況は悪くなる一方で、なにも出来ない歯痒さにただ怠惰な日々を送るしかなかった。



神様なんていない。


いたとしても助けてなんかくれない。


こんなに願っているのに、あの娘達はなにも悪いことなんてしてないのに、何故辛い目にあわなければいけないのか。


だから呪った。


神様を、それに世界を、理不尽な現実を押し付けてくるそれらを呪わずにはいられなかった。


それはただの八つ当たり以外のなにものでもない。


わかってる。わかってはいた。ただなにもせず祈る事しかしなくて、それで願いがかなわなければ逆恨みだ。


俺もたいがい捻くれた人間だった。


だけど、そんな捻くれた俺とは対称的にあの娘達はただ真っ直ぐに生きていた。自身が不幸の真っ只中にいるにも関わらず。


あの娘は微笑みを浮かべて言う。





この世にはね幸福も不幸もないんだよ。ただそれがそうしてあるだけ。それに幸福が不幸かの定義をつけているのは自分自身。


だからね。想えばどんなことも幸福なことになるし、不幸なことにもなる。


神様も、世界も関係ないんだよ。





ああ、そうか。そうなのか。


思い知る。全ては俺の勘違い。


あの娘は不幸なんかじゃなくて、幸福なのだ。


どんな辛い状況にあっても、気が狂いそうな現状にあっても、あの娘は幸福だったのだ。


誰も憎まず、なにも呪わず。あの娘はただ自分自身は幸福なのだと想いつづけた。


幸福は、不幸も、誰かに決められるもんなんかじゃない。


それはただ自分が想うモノなのだ。




それから俺の中でなにかが変わった。


神様を憎まず、世界を呪わなくなった。憎んでもしかたがない、呪ってもしかたがないのだ。だったらそんな不の感情は棄ててしまった方がいい。


何かを憎むより、何かを想う方が幸せだから。





神様?まあ、いるんじゃないの?


で、神様がなに?


そんなのなんにもしてくれないに決まってるじゃない。神様だって暇じゃないのよ。ほら、いろいろやることありんじゃないの?なんせ神様だし。


そんなのに頼るよりさ。自分の力でどうにかするのが筋ってもんじゃない?


だって自分のことだもん。自分を幸せに出来るのは自分だけよ。





あの娘の言葉に、そんな考え方もあるのかと妙に感心させられた。


神様も忙しいか。確かにそうなのかもしれない。


もしかしたら神様も俺達と一緒に苦しみ、悩んで、足掻いているのかもしれない。


本当は困っているのを助けたいと願っていて、でも自分には力がないから、ただ指をくわえて見ているだけで、


俺と同じだ。自身の無力さに歯痒い思いをしているのかもしれない。


そんな取り留めのないことを想う。


そう思っていたほうが幸せだ。憎むより、呪うより、心は凄く穏やかで、なにかしたわけじゃない、それでも心は少しだけ暖かい。



嫌いなモノがたくさんある世界と



好きなモノがたくさんある世界なら



好きなモノがたくさんある世界のほうが幸せだろ?



だから俺は願い、祈る。



どうか神様も幸せになれますように。








「貴方の声が聞こえたから」


神様が不意に呟いた。


「私はここにいる」


ふわりと何かが俺を包んだ。


「あんな願い事を聞いたのは初めてだったから」


そうか、よかった。俺の願いは届いていた。


「ごめんなさい。私は無力な神様だから、なにもしてあげられなくて」


ぎゅっとどうみて幼稚園児にしか見えない、その小さな身体を抱く。大丈夫だよ、と囁いた。


「貴方の願いが私の力になるから」


「俺が力になれるの?」


「想いは力。その想いは命となり私に力が宿る。貴方が想ってくれればなんだって出来る。世界中のみんなを幸せに出来る」


「はは、すげぇな。全知全能かよ」


少しだけ茶化してみる。


そして神様一言こう言った。















「だって私は神様だから」














おわり


ながらくほったらかしにしていたわけではありますが、完結ということで

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