そのよんー
「なんでダメだ?」
相変わらずの感情の乗らない声だったけど、明らかに神の機嫌は悪くなった。
俺は神に言い聞かせるように話し始める。
「おまえは俺のことを愛してる?」
「私はおまえを愛してる」
俺の質問に迷いなく神は答える。
「そうか。それは嬉しいな。ありがとう。俺を愛してくれて」
純粋に、誰かに愛されることは嬉しいことだ。
「だけど、俺はおまえのことがまだよくわからない」
一緒にお風呂を入っているわけだが、少なくとも俺は神とあったのは今日が始めてだ。
「おまえは子作りは簡単なことだって言うけど、俺はそう思えない。だから、俺はおまえとはまだ子作り出来ないよ」
子作り、それはとても大切なことだ。気軽にやっていいことじゃない。俺のことを愛してくれている女の子を、自分の欲求を満たすための道具には出来ない。
「……おまえは私のことを愛してないのか?」
相変わらずの抑揚のない声だけど、抱き抱える神の身体は僅かに震えていた。
神様っていっても普通の女の子なんだろうな。
「今、言えることは俺はおまえのこと嫌いじゃないってことだけだ」
そっと、神様を後ろから抱きしめる。
「俺は一途でしつこい女の子が大好きだから、おまえがこれからも俺を愛してくれるなら、俺はおまえのこと好きになる」
「今すぐはダメか?」
「ダメだ」
「私の奴隷になれるのに?」
「ダメだ」
「おまえの願いはなんでも叶えてやる。それでもダメか?」
「ダメだ」
たとえ、どんな条件を提示されても俺は首を縦に振れない。結果、俺がこの娘嫌われることになっても、それはしょうがない。
「私の前なら常に全裸でも……」
「いいのか!?……い、いや……だ、ダメだ……!」
危ない。危ない。あまりに魅力的な提案におもわず気持ちが揺らいでしまった。
「とにかく今はまだダメだ。ちゃんと俺がおまえのこと好きにならなきゃダメだ」
「なんで……おまえ……普通の人っぽい、まともな台詞を言ってる?」
「今は全裸だから比較的に精神が安定してるからだ」
「……」
神様はそれっきり口を紡ぐとしばらく黙り込んでしまった。
沈黙が続く。少しだけ居心地が悪い。
湯舟が温くなってきたような気がする。
首だけ動かして周りを見たが、ここのお風呂においだき機能はついてないようだ。
俺はともかく神様はこのままでは湯冷めしてしまうかもしれない。まだ、1時間もたっていないがそろそろあがったほうがいい。
「よし!」
俺は神様を抱えて立ち上がった。
※
らぶほてるの外に出た時はすでに日は沈んでいて、辺りを照らすのは夜の街のネオンの光だけになっていた。
「……」
それでもって、相変わらず黙ったままの神。
そのまま、とくに会話をすることもなく、俺は神とわかれて帰路についた。
別れ際のあの娘の淋しげな表情が俺の網膜に焼き付いて離れない。
あの娘は俺のことを諦めたのだろうか?
愛されてもいない相手を愛しつづけることは凄く辛くて、大変なことだ。
それでなくても、同じ人をずっと好きなままでいるのは難しいことなのに。
それにしても、あの娘はなんで俺のことを好きになったのだろうか?
※
翌日。超快晴。
「おまえらー、突然だが転校生だ」
朝のHR、担任の加藤の発言。
にわかにざわめきだす教室内。女なのか、男なのか。美少女なのか、イケメンなのか。
「まずいです」
そんな時、不意に隣の席の二名さんが呟いた。
「流石に果物はおにぎりの具にはあわないなー」
転校生なんざ知ったこっちゃないといった具合にマイペースな発言。
見ると二名さんは渋い顔でもごもごと口を動かしていた。
手には朝ごはんであろうおにぎり。そのおにぎりの中からはカラフルな具材が顔を覗かせていた。
「うーん。塩じゃなくて砂糖で味付けすればよかったかなー」
彼女の名前は二名理緒。
寝癖なのか、そういう髪型なのか、ボサボサのショートヘアに目元のクマが印象深い、ちょっと怪しげな女の子。
「填くんはどー思う?果物おにぎり」
「そうだな。まず、俺が言えるのはおにぎりにのりをつけるのは邪道だってことだ」
二名さんの果物おにぎりを指差す。
「それはどーゆーこっちゃ?」
「人間が衣服を身につけるのが邪道なのと同意。もっといえばおにぎりと中の具は分けるのが粋な人。それはそれのありのままの姿が一番だ。そんなわけで脱いでいいか?」
「なにいってんですか。填くん、すでに今日は全裸じゃねーかよ」
言われて気がつく。そういえば今日は制服着てくるの忘れたようだ。勿論、下着も。
通りで今日はやたらめったに調子がよかったわけか。超快晴だし。
「今日も良い全裸日和だ!」
「永田ぁ!うるせぇぞ、バカヤロー!俺が喋ってっ時は静かにしろっていつもいってんだろ!あと、服を着ろ!」
担任に怒られてしまった。
まあ、でも、全裸な今の俺の心は大海よりも広い。小さいことは気にしない。軽く担任の加藤の言葉を左へ受け流した。
「んだとゴラァ!加藤!てめぇちょーしくれてっとやっちまうぞ!?」
受け流した先にはヤンキーでクラス委員の山田武志君。俺が受け流したせいで彼が担任の罵声を受けるという、とばっちり。
「あー!?山田!てめぇ俺に逆らったらどーなっかわかってんのか!?病院送りにすんぞ!」
補足。担任の加藤誠は学生時代ヤンキーだったらしい。
「じょーとーだよ!この糞教師!表に出ろや!」
加藤、山田の両2名は互いを罵りあいながら教室をでていった。
残されたクラスメート諸君は揃って、またかぁと溜め息をはくのだった。
「ねぇ、填くん。このおにぎり食べない?お腹いっぱいになっちゃてさー」
そして、やっぱり二名さんは転校生なんてどこ吹く風で、担任がでていったことも気にせず、マイペースを貫く。そういえば転校生はどうなったのだろうか?まだ、教室にそれらしい影はなかった。
「いいの?実はどんな味するのか興味深々だった」
別に俺も俺で転校生なんてどうでもよかったりした。
「ぶっちゃけると、これ填くんのお昼ように作ってきたやつなんだー。でも、お腹すいたから食べちゃったよー」
あはははーと軽く笑う二名さん。
「んじゃ、食べさせてやるからなー。はい、あーん」
二名さんが俺の口元まで、さっき自分で食べていた果物おにぎりを運び、俺はそれを受け入れようと口を開く。
「ぱくっ」
今まさに果物おにぎりが俺の口の中に入ろうとしたところだった。急に現れたそれは横から果物おにぎりにかぶりついて、一口で跡形もなく果物おにぎりを消し去ってしまった。
「もぐもぐもぐ」
「うわ!おまえ、どっから沸いて出たんですか?」
それにびっくりした二名さんが驚きの声をあげる。
「あ、おまえは!」
そして、俺もそこにいた金髪ツインのロリッ娘を見て驚きの声をあげた。