そのにー
腐りきったこの世界に今!神の鉄槌が下される!
「神よ!とりあえずなんかどーん!ってやって!どーん!って!」
「まかせな」
神は夕陽をバックに両手を翳し、呪文らしきものを口にする。
「ふぁーいーなーるーへーヴーんー」
「おお!なんかそれっぽい!」
やっぱ、神はオーラが違う!なんか、違う!
「いや、まちなさい。どっからどーみても悪ふざけじゃないのよ」
無粋にも見当外れのツッコミをするはらみ。
「はらみ、おまえは馬鹿だ。この神が神である証明ともいえるであろうオーラがわからんのか?だから、全裸の良さがわからないんだよ。ばーかばーか」
「全裸は関係ないでしょ!」
よく考えれば確かに関係ない気がしないでもないないない。
でも、俺は関係あると信じている。
それが全裸に命をかけている俺――つまりゼンラー(マヨラーみたいなニュアンス)のぽりすぃだ。
「で?とくに何にも起きないわよ?」
「……」
神は呪文を唱えたはいいがそれだけだった。
地面はわれないし、火山も噴火するわけでもないし、ゴロゴロピシャーンもないし、道行く人々も全裸になったりしていない。
そこで、不意に神が言った。
「ぱわーが足りない」
「ぱわー?」
神が両腕を下ろしてこくりと頷く。
「今の私にはどーん!やるだけのぱわーはない。補給しないといけない」
つまりは等価交換つーやつですな。どーんやるにはどーんやるだけのぱわーが必要なわけで、ぱわーの補充が必要不可欠。神もそんなに万能じゃないわけか。
まあ、そう簡単に都合よくどーんなんて、そんなにうまい話しはないってことだな。
「よし!それなら補給しよう!今すぐしよう!それで、そのぱわーは何で補給するんだ?」
「ついて来て。ぱわーの補給にはおまえが必要」
神は俺の腕に自分の腕を絡めて「れっつらごー」と気の抜ける掛け声とともに歩きだそうとするが、案の定「ちょっとまったー!」とはらみが待ったをかける。
「おまえ、まだいたのか。お邪魔虫め。私とだーりんの甘い一時を邪魔するつもりか?」
「な……!?」
「だーりん?」
私とだーりん?今、神といるのは俺なわけで、つまり、俺が神の言うだーりんってことか?
俺、そんなだーりんだなんてお茶みたいな名前じゃないんだが。
あだ名か?雰囲気がお茶っぽいとか?よくわからん。
「このぼけがああああ!」
そして、何故か俺ははらみに殴られる。
「ぴきーん!見える!」
だが、しかし、俺はそれを華麗に左へ受け流した。さっきは不覚にも一撃貰ったが今回はそうはいかない。
「私の幻の左がかわされた!?」
「甘いぞ、はらみ。忘れたのか?全裸の俺は服着用時の三倍速い!」
それは某赤い彗星の如くなり。
「はらみ!おまえが全裸の俺に勝とうなどと笑止千万!服を脱いで出直すんだな!」
「くっ!覚えてなさいよ!次はこうはいかないんだからね!」
はらみは雑魚敵仕込みの捨て台詞をはいてぴゅーんと走り去っていく。
と、思ったら、全速力でUターンしてきた。
「って!違うわよ!ぼけ!なんで、その娘はあんたのことだーりんなんて呼んでるのよ!あんた一体こんなちっちゃい娘に何吹き込んだのよ!てゆーか!まず、その娘は誰なのよ!説明しなさい!」
「いや、誰といわれても……」
今更だけど、この娘は一体、何処の誰なんだろうか?そういえば、名前も知らないな。
「私は神」
「神だって」
「なんだ神様だったのね」
一同納得。謎は全てとけた。犯人はヤス。
「で、だーりんってどうゆうこと!?」
「ダージリンの新種じゃないのか?」
「んなわけあるか!」
違ったらしい。となると俺にはさっぱりだ。だーりんってなんですか?
「その雌豚の相手は疲れるだけ。無視して行く」
「ちょ……!?雌豚って誰のこと言ってんのよ!」
「はらみのことだろ?なんかおまえ最近太ったよな。主に胸が」
去年に比べると明らかに太りまくっているはらみの胸。流石にあれでは体重も増えるな。
「まあ……確かにちょっと体重は増えたけど……」
はらみは自分の胸をフニフニと揉みながら、目線は見比べるようにその胸と神の胸を行き来する。
「ふっふー」
そして、何故か勝ち誇った笑みを浮かべた。
「ふぁーいーなーるーへーヴーんー」
神が呪文を唱えた。
「え?ちょっと!これどうゆうこと!?」
はらみが狼狽する。何事か?と思いはらみを見ると、どうだろうか、はらみの胸がペタンコになっていた!
「おおー!よかったなはらみ!それで、体重かなり減るんじゃないのか?激ヤセじゃーん!」
「そ、そんなー……これどうなってるのよー……」
がっくりと崩れ落ちるはらみ。俺にも理屈はさっぱりだが、これで神に雌豚呼ばわりはされなくなる。よかった。よかった。
「にやりにやり」
そして、神はそんなはらみをニヤニヤと意地の悪い笑みで見下していた。
「こんな無乳は放置して行く」
改めて腕を絡めて、俺と神は道端にがっくりしているはらみを残し旅立つ。相変わらず俺は全裸だった。