表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/86

85.父親とダンス、姉の願い

 ダンスは無事終わりを迎えました。

 無難にやり切ったので、満足です。


 ゆっくりしたかったのですが、すぐに陛下からダンスを誘われました。公衆の面前で断れるはずもなく、お受けします。


 クラウス様の力強いダンスとは違い、陛下は、上品で流れるようなリードをしてくださいます。とても踊りやすい。


「レティシア、決断してくれてありがとう」


 感無量なのか、瞳がウルウルと潤んでいます。

 一国の王様が、こんなところで泣いちゃ駄目ですよ。


「陛下。

 私が産まれたことで、さまざまな思いを抱いている人たちがいることは、理解しています。

 でも、今まで産まれて来なければよかったなんて、一度も思ったことがありません。

 二人が出会って、恋をして、私を産んでくれたことは感謝しています。

 陰ながら、護ってくださっていたことも、素敵な伴侶を選んでいただいたことも、本当にありがとうございました」


 夫や恋人としては、どうかと思いますが、父親としては頑張っているのではないでしょうか。

 現に、テオフィル様やアンジェリカ様は、呆れながらも、父親を嫌ってはいないんです。


「レティシア……産まれたばかりの小さな君をこの手に抱いた感触は、今でもはっきりと覚えている。

 こちらこそ、産まれてきてくれてありがとう」


 まだまだ親子というには、ぎこちないし、戸惑う気持ちしかありませんが、愛してくれているのはわかります。


 誰になんと言われようとも、二人がいたからこそ生まれた私は、否定したくない。


「お父様。私は今とても幸せです」

「……ああ」


 陛下は、唇を噛み締め、感情が溢れるのを我慢しているよう。

 私が泣かせたみたいだから、やめてくださいね。


 結局、親と呼べる人が増えた。

 ただ、それだけのことなのです。


 一曲踊り終わった後、先ほどまでテオフィル様とダンスを踊っていたアンジェリカ様は、次にクラウス様と踊ります。

 私のパートナーは、テオフィル様にかわります。

 筋書き通り、王家と辺境伯家は、かたい絆で結ばれていると宣伝するため。


 テオフィル様の手を取り、踊り始めます。彼のダンスは、陛下とよく似ていました。


 視線の端に、クラウス様とアンジェリカ様が踊っている姿を捉えます。

 見目麗しい2人のダンスは、天上に舞う天使のように神々しく、観覧している人々もうっとりと見惚れています。


 素晴らしい光景のはずが、胸がチクチクと針を刺されたように痛みました。


「気になる?」


 テオフィル様に声をかけられて、


「そんな、ことは……」


 動揺しました。

 うまく言葉を紡げないでいると、クスクスとテオフィル様が笑います。


「おかしいことじゃないでしょ? 夫が元婚約者とダンスをしている。

 ちっとも気にしないのは、クラウスが可哀想だよ」


 ああ、そうか。

 これが嫉妬なのだとわかった瞬間、なんともむず痒くなり、足がもつれました。

 テオフィル様がうまくリードしてくれなければ、転けて大恥をかくところです。


「大丈夫?」

「は、はい。申し訳ございません」

「案外、可愛いところもあるんだね」


 案外ってなんだ。

 助けてくれたので、文句はいいませんけどね。


「以前、クラウスをよろしくと言ったのを覚えている?」

「はい」


 隣国で、頼まれたことを思い出しました。

 その時、意味はわかりませんでしたが、今ならちょっとわかります。


「クラウスには、幸せになって欲しかった。あのままアンジェリカと婚姻を結んでも、2人は両親と同じ道を歩むんじゃないかと、頭から離れなかった。

 甘いと言われるだろうけど……ね」


 あら、愛を感じます。


「クラウス様が大好きなんですね」


 テオフィル様は、キュッと眉根を寄せました。


「ちょっと、違和感を覚える言い方なんだけど、違うからね。あくまで、友人としての好きだからね」

「わかってます」

「僕は、ちゃんと妻を愛してるからね」

「はい」


 テオフィル様は既婚者です。王太子妃殿下は、現在妊娠中のため、離宮でゆっくり過ごしており、私もまだ会ったことがありません。

 子供が産まれたら、私の甥か姪、もしかしたら、王になる方かもしれません。

 お会いできる日がくるといいですね、ご無事の出産をお祈りしています。


 踊り終わったクラウス様が、アンジェリカ様をエスコートしながらやってきました。

 彼女は、艶やかに微笑んで、周りに聞こえるような大きな声で話し始めます。


「レティシア。私が選んだだけあって、そのドレス、とてもよく似合っているわ!!

 クラウスも、こんなに可愛い妻で幸せ者ね」


 注目を浴びるアンジェリカ様。

 ワザとですね、コレ。


「クラウス。友人として、あなたに最後の……多分、最後のお願い。

 私の大事な妹を、幸せにしなさい」


 アンジェリカ様は、骨の髄までわがまま王女様。

 最後のお願いと言い切らないところも、らしいといえばらしいです。


「かしこまりました。全てをもって、妻を幸せにすることを誓います」


 クラウス様は、エスコートしてきたアンジェリカ様をテオフィル様に託した後、私の手を取りました。


「レティシア」


 手の甲にクラウス様の唇が触れ、ピリピリと痺れました。

 自分の名前がとても甘美なものに聞こえます。


 辺りの女性たちが、頬を染めて、チラチラとこちらの様子を窺っていますね。

 一生分のお姫様気分を味わい中です。


 私が庇護されているとアピールするために、やってくれていることは、わかっていますが、もう充分ではないでしょうか?

 視線が突き刺さり過ぎて、痛いです。


 ちょっとした嫌がらせなんじゃないかと、疑ってしまいそうですよ。

 恥ずかしいから、もう勘弁してください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ