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83.舞踏会のはじまり

 後悔しても、一度口に出したことを覆すわけにもいかず、時間は刻々と流れます。

 本日は、お日柄もよく舞踏会です。


 淡いグリーンのドレスは、金色の糸で、植物のツタ模様が刺繍されています。

 スカート部分は、ふんわりレースが幾重にもなっており、妖精の羽みたいに軽い印象です。

 この繊細なドレスを、あの強面の仕立て屋さんが作ったとは、驚きですね。

 すばらしい技術なので、アンジェリカ様が気に入っているのも、うなずけます。


 準備が終わった頃、クラウス様が迎えに来てくれました。

 珍しく茶色のタキシードを着ておられます。

 私の髪とおそろい……?

 いやいや、よくある色なので、気にし過ぎですね。


 近づいてきたクラウス様は、ニッコリと微笑まれました。


「ドレス、よく似合っている。とても綺麗だよ、シア」


 なんでも言葉にするようになった彼に、慣れないような、恥ずかしいような。


「ありがとうございます。クラウス様もよくお似合いで、素敵です」

「ありがとう」


 そう答えたクラウス様は、ポケットの中から手のひらサイズの黒い箱を取り出しました。

 のぞき込むと、見えやすいようにその箱を開きます。


「きれい」

「ペリドットという宝石だ。シアの瞳にそっくりだろう?」


 きらめく緑色の大きな宝石がついた首飾り。小さなダイヤモンドが、ちりばめられています。とってもお高そう。


「シア、後ろを向いて」

「……は、はい」


 身体の向きを変えると、クラウス様が手をまわして、首飾りをつけてくれます。

 首筋に息がかかって、なんとも照れくさい。


 これは、新手のいたぶりでしょうか。


「ぴったりだ」


 鏡の中にうつる私は、いつもよりキラキラと輝いて見える……気がします。

 首飾りが豪華すぎて、顔が負けていませんかね?

 不安だ。


「こんな美しい贈り物、本当に嬉しいです。

 ありがとうございます」

「喜んでもらえて、良かった」


 (とろ)けるような甘い瞳。

 全身で好意を示されていると、たまらなくなって、心臓がもちません。

 どうにかして、私もクラウス様に一泡吹かせたい。

 うーん。どうすればいいのか皆目、見当がつきません。


 考える間も無く、そろそろ会場へ向かう時間になりました。


「さあ、行こうか?」

「はい」


 クラウス様のエスコートは、紳士的です。

 今日の懸念は、クラウスさまの噂です。

 あれがどこまで影響を及ぼすのか、私にはわかりません。

 突然、ケンカを売られるかも。

 よし、受けて立ちましょう。

 普段は、たおやかな私ですが、嫌味の応酬もそこそこできるはずです。


 脳内で、ブンブンと拳を振り回す練習をしながら、控えの間へ向かいます。


 王宮の大広間で行われる舞踏会。

 私たちは、大広間にある大階段の二階から静々(しずしず)と降りて行くという、見応えたっぷりな登場の仕方をします。


 大階段近くの控えの間には、貫禄があるお召し物の陛下、今日の主役であるアンジェリカ様、そして中性的な美貌を誇るユリウス王子がいらっしゃいました。

 軽く挨拶をした後、アンジェリカ様から、


「今日は、堂々とふるまうのよ!」


 というありがたいお言葉をいただきました。


 彼女をエスコートしていたユリウス王子が少し視線を下げます。


「お久しぶりです。クラウス卿、夫人。以前は、ほとんどお話しする機会もなく、申し訳ありませんでした。今日は、お会いできて光栄です」


 愛に溺れ、婚約者のいる女性を奪ったという印象でしたが、思っていたより丁寧で穏やかな物腰に驚きます。

 そりゃ、王子様ですものね。


「こちらこそ、お会いできて光栄です。本日の婚約発表、おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 心嬉しそうなユリウス王子とクラウス様の間には、なんのわだかまりもなさそうです。


 隣でニコニコと笑顔を浮かべていたけれど、クラウス様の腕をギュッと握ってしまいました。

 クラウス様は、ユリウス王子を許しているのでしょうか?


「では、行こうか」


 そんな陛下の言葉に従い、大階段の上まで移動します。


「シア」

「はい」

「以前、ユリウス王子の国へ行った時、彼と少し話をしたんだ」


 ユリウス王子の話がでてきたということは、さっき、私が手に力を入れたと気がついたのでしょう。


 数歩前でアンジェリカ様をエスコートしているユリウス王子の背中に視線を向けます。


「話ですか?」

「ああ、アンジェリカ王女殿下のことを謝られた。

 彼は恋に落ちたが、彼女を奪うつもりは、なかったと。

 私の悪評が広まり、自分の方が王女殿下を幸せにできると義憤(ぎふん)に駆られたらしい。

 真実を確かめずに、王女殿下に婚約破棄を勧めてしまったと……」


 愛する人がロクでもない噂の流れている男に嫁がなければならないと知れば、やるせない気持ちを持ってしまうのも致し方なし……ということですか。


「騙していたのは、こちら側だ。これで良かったと思っているし、2人が幸せになるのを祈っている」


 クラウス様は、恋の橋渡しをしたというわけですね。

 正直、馬鹿だなぁと感じる反面、かわいいなとも思います。

 結婚して、クラウス様をちゃんと知れば、アンジェリカ様だって絆されたかもしれないのに。


 いや……アンジェリカ様の好みって、多分中性的な美少年系ですよね。

 ユリウス王子どんぴしゃ。

 クラウス様は、男らしい感じなので無理かも?


 おっと、私はクラウス様のお顔の方が好きですから、落ち込まないでくださいね。

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― 新着の感想 ―
[一言] >どうにかして、私もクラウス様に一泡吹かせたい。 レティシアの方からいきなりキスをすればいいんじゃないですかね? まぁレティシアの方も精神的なダメージを喰らうでしょうから、最終手段かもしれ…
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