82.メンブラード侯爵の末路
皆さま、お久しぶりでございます。
止めていた更新を再開します。
舞踏会に向けて、絶賛勉強中のレティシアです。
上級貴族の情報に疎い私は、クラウス様から教わりながら、家名や当主の名前を必死で覚えています。
先生が優しいので、頑張っています。
頑張るとよくできましたと褒められ、お菓子を貰えます。
褒められると伸びるタイプです。
そんな忙しい毎日を送っていたある日、陛下から呼び出されました。
最初の日に案内された、大きな円卓のある部屋へ、再び訪れたわけです。
神妙な面持ちの陛下が座っていらっしゃいます。その隣にはテオフィル様も。
「やあ、レティシア。ここでの暮らしには慣れたかい?」
私の顔を見た瞬間、頬がゆるむ陛下。
なんとも言えない気持ちが込み上げてきましたが、深く頭を下げます。
「はい。お心づかい、ありがとうございます」
「そんな、他人行儀じゃなくていいのに……」
公表していないので、ほぼ他人です。
そもそも、ここでの暮らしに慣れてどうするんですか。
不服そうな陛下の横で、呆れたように頭を振るテオフィル様から大きなため息がもれました。
「陛下。話を進めていただいても?」
「あ、ああ。わかっている」
コホンと咳き込んだ陛下は、再び真面目な顔つきに変わりました。
威厳ある国王のお姿です。
いつもそんな顔なら、尊敬できるのに。
「実は、今日呼んだのは他でもない。メンブラード卿のことだ」
白カラスの依頼主、数々の罪を犯したメンブラード侯爵。
彼の沙汰が決まったのかと思えば、伝えられた言葉は、意外なものでした。
「昨夜、メンブラード卿が、毒をあおって亡くなった」
「どういうことでしょうか?」
クラウス様が戸惑いの声をあげます。
なんでそんなことに?
「メンブラード卿は、ラングハイン塔で、拘留されていた。
どこから持ち込んだのか、毒を所持しており、それを飲んだようだ」
ラングハイン塔とは、身分の高い政治犯など、犯罪者を収監する監獄のことです。
刑が確定するまでの拘置場所としても使われています。
「拘禁する前に所持品の検査をしなかったのですか?」
「検査したが、怪しいものは持っていなかった」
それなのに、毒を飲んだ?
いったいどうやって?
「自らの手で毒を飲んだのは間違いない。
だが、何者かの手引きがないと、彼が毒を入手するのは、不可能だ」
他殺の線はなく、自殺。
うーん。拘留されていたメンブラード卿に、毒物を渡す。そんなことができるのは、かなり国の中枢に近い人物ではないでしょうか?
未だ上級貴族一覧が頭に浮かばない私には、さっぱりわかりません。
難しい顔をして、テオフィル様は顎をさすっています。
「彼の死で、事件の全容解明が難しくなった。何件か、不可解な事件もある。
それに、レティシアが狙われた件も、はっきりしていない」
「それは、どういう意味ですか?」
私を狙ったのは、メンブラード卿なのですよね?
「メンブラード卿が、あの時に言った言葉を覚えているか?
たかだが、男爵令嬢1人の命がなんだというのだ。
陛下がお怒りになったので、それしか言っていない。メンブラード卿が依頼主だと話したのは、白カラスだけで、確固たる証拠がない」
テオフィル様に言われて、気がつきました。
彼は、自分が依頼したと、はっきり口にしていません。
陛下をチラ見すると、気まずそうに目を泳がしています。
「白カラスによる数件の殺人事件は、間違いなくメンブラード卿の指示によるものだろう。
しかし、全てを彼の罪だと断定するには、証拠が圧倒的に足りない。
それを明らかにする前に、メンブラード卿は亡くなってしまった」
モヤモヤしますね。
陛下が、重ねた手の上に顎を乗せ、ジッとクラウス様を見据えました。
「これから、白カラスやメンブラード卿に関連した人物たちを中心に調査する。
報告にあったドワイアン家で働いていた内通者の侍女についても引き続き調べよう。
クラウス、くれぐれもレティシアの周辺に、気を配ってやってくれ」
「はい。かしこまりました」
もう二度と狙われたくないですが、本当にメンブラード卿が黒幕ではないのでしょうか?
白カラスの言葉を鵜呑みにするわけではないのですが、そんな小手先の嘘をつく意味がわかりません。
嘘はついていなくても、全てを話しているわけではない?
白カラスは捕まっています。そこから新たな情報が得られるのを待つしかありませんね。
「調査のため、今回の件は秘匿扱いとなる。
メンブラード卿は、病死として発表。
騒ぎをおさえるため、一時的に侯爵家は子息のノエルが引き継ぐ。
が、場合によっては爵位の取り消しもあると伝えている」
この国は、大きな戦争もなく、ずっと平和だと思っていました。
国の安寧のため、公にならない罪や、病死として処理されたり、闇に葬られた歴史というものがあるのでしょうか。
王国の闇。
こうやって巻き込まれなければ、知らなかった事実です。
知りたくなかったなぁと、思いますね。
出自を公表するの、早まったかもしれません。
今更、ナシとか、無理か。
無理ですよね。
いえ、前向きに考えましょう。
真犯人が別にいるとします。
王族として発表された後、私を狙うのは、自殺行為。
早速、陛下が盾として活躍するわけです。
がんばれ、陛下!!
第一章は、書き終えていますので、そこまでは更新を続けたいと考えています。
ただ第二章は、現在執筆中につき、第一章終了からいったん時間をいただく可能性があります。
年末に向けて、忙しく、執筆が思うように進んでいないのが現状で、たいへん申し訳ないです。
これからもお付き合いいただけると嬉しいです。