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81.選択肢

 おお、神よ。なぜ、私にこれほど過酷な試練をお与えになるのか。

 楽に生きたいので、これからはその辺よろしくお願いします。


 まったく、こんなに悩んだのは、昔、おでこの真ん中に、大きな出来物(できもの)ができて、なかなか治らなかった時以来です。


 結局、私は自分の出自を公表することに決めました。

 お姫様になりたいの、うふふ。とかそんな理由ではありません。

 王女と辺境伯子息の夫婦って、強くないですか? 向かうところ敵なし!


 すみません。冗談です。


 ドワイアン家、コウトナー家、そして領民たちは、私にとって大切な家族。

 陛下の存在は、大きな盾。

 家族を守りたい、至極シンプルな考えにいたったわけです。


 公表した後、どうなってしまうのか、まだわかりません。


 クラウス様からは、本当にいいのかと、心配されました。


 でもね。

 公表しなくても、いずれ漏れる可能性がある。

 私という動かぬ証拠がいますし、私の出自を既にご存じの方々もいるわけですからね。

 むしろ、今まで隠し通せたことがすごい。

 今後、バレた時に、もっとややこしいことになりかねないと思うんです。

 ならば、自ら公表して、自衛手段をとった方がいい。


 ただ、そういう選択をするように仕向けられた気もしますね。

 特に腹黒王太子殿下。

 嘘はついていないけれど、本心も巧妙に隠している。そんな気がするんですよね。

 王太子殿下の崇高な志は、計りかねます。


 もう考えるのが、面倒くさくなったから、長いものには巻かれとこうかな。

 などと、決して、決して、思ってません。

 あしからず。


 そんなわけで、陛下に決断を報告すると、異常なほど喜んでいました。

 興奮して、抱きつかれそうになりましたが、それはちょっと、と謹んでご辞退申し上げました。

 大好きなお菓子をとられた子供のように肩を落としていたので、ちょっと可哀想だったかも知れません。


 その代わり、お手紙のやり取りをすることを提案しました。物理的な距離はどうにもならないので、手紙を通じて、少しずつわかり合えればと思います。


 発表の場ですが、ユリウス王子とアンジェリカ王女殿下の婚約披露の場でとなりました。

 なかなか思い切ったなという印象です。


 アンジェリカ様が主役なので、嫌がると思いましたが……


「いいわね。私の妹を大々的に紹介してあげるわ」


 と喜んでくれました。


 さまざまな憶測が飛び交うでしょう。


 王家とドワイアン辺境伯家の関係を盤石(ばんじゃく)にするには、一番手っ取り早く、かつ効果的。

 それに、今回の婚約披露の場は、かなり厳選された人たちしか出席しないため、大きな混乱がないだろうというのも、理由の1つ。

 徐々に私の存在が広まっていくでしょう。


 婚約発表がなされる舞踏会は、1ヶ月後。

 それまで、私とクラウス様は、王宮にとどまります。


 お義父様とソニオ父様は、それほど長い期間領地を離れられないと、帰ってしまいました。

 淋しい。


 私は、ソニオ父様に家族への手紙を預けました。

 ざっとですが、今回の説明と、家族への愛を綴りました。私が誰であろうと、家族は家族という思いの丈を込めて書きました。

 いい子ですね、私。


 うちの家族は、えっ!! そうだったの!? レティが王女とか笑えるわー。とかいいそうです。

 大爆笑している顔が目に浮かびます。

 特に姉様。

 そんなもんだから、いいです。


 さて、王宮の舞踏会の出席が決定し、これから大忙しです。


 ドレスすら決めていない中、アンジェリカ様が、王女として認められるためには、生半可なドレスでは駄目だと、熱く語ってきました。


 目をらんらんと輝かせて、早朝から私の部屋にやってきたアンジェリカ様。

 寝ぼけ眼で、腕を引っ張られ、広い部屋へ連行されます。

 そこは、王家御用達の商人が来たときに使う部屋だそう。

 黄金色に輝く鳥の羽をモチーフにした装飾の姿見。

 たくさんの生地、靴、装飾品などが並べられている広い机。

 合間に摘める彩り豊かな小さくてかわいいお菓子や飲み物。


 目移りしたものの、それより異彩を放つ人物がいたため、私の視線はその方に釘付け。

 年齢はかなり上。

 丸刈りの強面で、腕っぷしも強そう。ムキムキの筋肉が、繊細なレースの隙間から覗いています。総レースの光沢のある紫色のワンピースは、とても美しいんですが......男性ですよね?


「彼はボニファース。私のお気に入りの仕立て屋よ」

「もう殿下ったら、私のことは、ボニーと呼んでって、お伝えしたでしょう?」


 腰をクネクネ動かし、真っ赤な口紅が妙になまめかしい仕立て屋さんです。

 男性ですよね?


「わかってるわ、ボニー。彼女は、レティシアよ。急いで彼女にぴったりの美しく、上品で豪華なドレスを作って欲しいの。できるわよね」

「ええ、もちろんですわ」


 有無も言わせぬワガママっぷりが健在のアンジェリカ様の命令に、特に異論を唱えることなく了承するボニーさん。

 すごくわかり合っていて、慣れた様子です。


 それからのことは、あまり思い出したくありません。ドレスをひん剥かれて、頭の先から足の指先までメジャーで測られ、ああでもないこうでもないと、生地をなん度も身体にあてられました。


 アンジェリカ様から、生地の種類、色、形、靴や装飾品まで、どんなものが好みか、ひっきりなしに質問されます。


 悩み、悩んで、悩ましい。

 もう、好きにしてください。


 ドレス一着作るのに、こんなに労力を使うとは、思いませんでした。

 普段着のドレスを一着作るのとわけが違います。

 王族だからか、生地や装飾品の選択肢が多いのが原因です。

 終わった頃には、馬車の長旅よりもグッタリしました。


 もう、選ぶのはうんざりです! 

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