8.お義母様と一緒
翌日の朝食は、クラウス様もいらっしゃいました。昨日は本当に忙しくて、朝食を一緒にとれなかっただけみたいです。
今日のクラウス様も顔だけは麗しいですね!
昨日はいつのまにか寝てしまって、すまなかったと朝一番に言われました。
お酒を飲んだ時のことは、全く覚えていないようです。
ただ、気をつかってくれているようなので、家族として尊重するという最初の言葉に、嘘偽りはないようで安心しました。
しかし、酔っ払って新妻に心の恋人を打ち明けるとは、なんたる鬼畜の所業でしょうか。
本来なら新妻はショックを受けて寝込んでいるところですよ。
よし! またお酒を飲ませてみましょう。おもしろいものが見られるかもしれません。わくわく。
「さあ、今日は私の番ね!」
本日は、お義父様とクラウス様が一緒に出かけてしまったので、お義母様が町を案内してくれるそうです。
「ドワイアン領は、隣のヘルツベルク国との国境沿いにあります。知っていますね?」
「はい、お義母様」
わがクベリーク国とヘルツベルク国は、昔とても仲が悪かったのです。
ドワイアン辺境伯家は代々国境を守っていました。二国間の戦争が何度も起きていたのです。
ところが3代前、両国の王様が平和条約を結びました。
それからは、小さないざこざがあっても大きな戦争はなくなりました。
「平和条約のおかげで、この辺りもどんどん栄えていったのよ」
隣国の文化も取り入れつつ、ドワイアン辺境伯領は、独自の発展をしてきました。
はい。ここまではちゃんと私も勉強したんです。偉いですね。
町は活気に満ち溢れています。お店もたくさんありますし、屋台からおいしそうな匂いがただよってきます。
呼び込みの店員さんも大きな声を上げて、元気にお仕事をがんばっています。
領民たちは、とても生き生きしていますね。
お義母様に連れられてやってきたのは、お肉屋さんでした。
店頭には、大きなお肉の塊が並べてあったり、調理された鳥さんが丸ごとぶら下がっています。豪快ですね。
「いらっしゃい!まあ、シルビア様!!」
「おはよう」
肉屋のおば様は、お義母様の顔を見るなり、とてもうれしそうな顔になりました。ここにくる間も、シルビア様と親しげに声をかけられていて、お義母様は領民たちに大人気のようです。
さすが女神様ですね。
「フィナ、今日はうちの嫁を紹介しにきたのよ」
「まあまあ、若奥様ですね!」
肉屋のフィナさんは、興味津々といった様子です。若奥様だなんて、少し照れますね。響きがいいです、響きが。
フィナさんは、白髪混じりの少しふくよかな女性で、とても貫禄があります。
「初めまして、レティシアといいます」
領民に好かれることは、大切です。
私は満面の笑みで自己紹介をしますよ。第一印象は大事ですからね!
「まあまあ、可愛らしいお嬢様ですね。 私はフィナといいます。この辺りにある商店の相談役なんかをしてるんですよ。
困ったことがあったら、なんでも聞いてくださいね」
フィナさん、とっても優しい感じで好感が持てます。
「ありがとうございます」
フィナさんは、私の両手をガシッと掴んで握り締めます。
ち、ちょっと痛いです。力加減お願いします。ドワイアン辺境伯領の方は力が強いんでしょうか?
涙目になるフィナさん。
痛くて涙目になるのは私のはずです。おかしいですよね。
「クラウス様は本当にお可哀想な人なんです。若奥様、どうか坊っちゃんを支えてあげてくださいね」
クラウス様が可哀想?一体どういうことでしょうか。
私が坊っちゃんを支えるのですか?
とりあえず手を離してもらってもいいですか?