75.王妃様の温室
うーん、参りました。
昨夜は、相当精神的に追い詰められていたのか、夕食もとらず、コテンと私は眠ってしまいました。
目が覚めたら、朝。
夜着だったので、モニカが着替えさせてくれたようです。ありがとう。
いろいろとあり過ぎて、頭が働かなかったことは認めましょう。
クラウス様と両想いになったのも、あの状況に酔って、気分が盛り上がってしまった気もします。
やっちゃったか?
いやいや、クラウス様のことは、好きですよ。もちろん。
うーん。
まあ、いいか。夫婦だし。
好きなら好きでいいじゃないか。
何を迷うことがあるだろうか。
これから長い時間、夫婦として生活するんですから、両想いは良いことですよね。
あれ、そういえば私、クラウス様に好きと伝えてませんね。
あらためて言うのは、かなり恥ずかしい。
……よし、保留!
レティシアは、いったん逃げ出すことにしました。
とりあえず、クラウス様のことは隅に置いておきましょう。
現在一番の問題は、陛下のことです。
「お、お待ち下さい!!」
焦りを含むモニカの高い声が廊下から、聞こえてきました。
どうしたのかと訝しんでいると、突然、扉がバンッと開きます。
し、襲撃ですか!? 武器はどこです!?
「ちょっと、私への挨拶がないって、どういうこと!?」
わあ、妖精さんだぁ。
朝日の光を浴びたアンジェリカ王女殿下は、キラキラと輝いています。相変わらずお美しい。というか、この人が私の腹違いの姉なのですね。
全然似てない。
お互いに、母親似なんですね。
少しくらいこの輝きをわけて欲しかった。
「えっと、おはようございます。殿下」
ベッドから急いで降りた私は、礼をします。
彼女はツカツカと近づいてきて、眼前で立ち止まり、目を合わせてきました。
美女に見つめられると、照れますね。
「……ふうん。たしかに目の色だけは……ちょっと似てる? 微妙だわ」
「へ?」
「聞いたわ。お兄様からあなたのこと」
ダラダラと背中から汗が噴き出してきます。こんなすぐに話すとは、思っていませんでした。
まだ、心の準備が……罵倒されたりするんでしょうか。
「一緒に来なさい!」
「へ?」
「何よ、お姉様の命令が聞けないというの?」
お姉様?
「あの、嫌じゃないんですか?」
「なぜ?」
「なぜって、私は……」
「腹違いだろうと姉妹は姉妹でしょ? なにか問題ある?」
小首を傾げて可愛らしいんですが、問題だらけなのでは?
「あなたのことは、わりと気に入ってるのよ。
私は好きなものは好きだし、嫌いなものは嫌い。ただ、それだけなの」
単純明快。わかりやすいです。
アンジェリカ王女殿下は、パンっと手を叩きました。
「私、妹が欲しかったのよ! そうだわ、お姉様と呼びなさい!」
あれ? これ、ただお姉様と呼ばれたいだけなんじゃ……。
さっさと着替えなさい。私を待たせるつもりと急かされ、準備を最速で終わらせました。
腕を掴まれ、拉致されます。あーれー。
相変わらず、強引な方です。
昨日は夕食を食べていないので、おなか空いた。
王女殿下を拒否などできるはずもなく、大人しく、ついていきます。
アンジェリカお姉様かぁ。
気恥ずかしいですね。
彼女に手を引かれながら、自分が、今どこにいるのかさっぱりわからない。
ふと天井を見上げます。
高い……。
天井には、神や天使が描かれた宗教画。
どうやってあんな高いところに絵を描いたんでしょうか?
王宮は大きいなと、子どもじみた感想を思い浮かべ、キョロキョロと辺りを見渡します。
柔らかい日が差し込む、大きな窓が並んだ廊下を進みます。
そのまま、外に出ました。
朝のヒンヤリとした空気と、太陽の光が眩しくて、自然に目が細くなります。
まるで迷路のような背が高い生垣の横を通り抜けると、大きな木々に囲まれたガラス張りの丸い建物が見えてきました。
「お母様が大切にしていた温室よ」
連れて来られたのは、温室。
中に入ると、ほんのり温かく、たくさんの綺麗な花が咲き乱れており、目を楽しませてくれます。
「綺麗ですね」
「ほら、こっちにいらっしゃい」
「はい」
グングンと奥へ進んでいくアンジェリカ様。
そこは少し開けた場所で、中央に真っ白な丸テーブル。その上には、美味しそうな匂いのするパンやサラダ、スープ、茹で卵、果物などが皿の上で綺麗に盛りつけられています。
それを見た瞬間、思い出したかのように、おなかがグゥッとなってしまいました。
クスリと笑ったアンジェリカ様が料理を手で指し示します。
「さあ、朝食にしましょう」
なんと、朝食に招かれたようです。
空腹なので、ありがたくいただきましょう。
見ただけで、よだれが出そうです。はしたないので、そんなことしませんよ。
飲み物を用意した侍女が離れた後、二人っきりの朝食会が始まりました。
あれ、なぜ、こうなった?
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