表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/86

72.王妃様の気持ち

 テオフィル様にお会いしたいと希望して、すぐに会えるわけがないと思っていました。

 それがあっさり了承されたと聞いて、驚愕です。


 当然ながらクラウス様も同席の上という条件付き。私たちの関係が公表されていない今、二人っきりで会うと、変な邪推をされる可能性があります。


 合流したクラウス様は、私になんと声をかけていいのか、迷っているもよう。


「シアがどんな決断をしても、私が側にいるから安心してくれ」


 そう言ってくださった彼には、感謝しかありせん。


 テオフィル様にお会いする場所は、彼の執務室。人払いをした後、話をすることになりました。


 大きな書斎机がドンっと置かれているのが目につきます。

 書類が積み上がっており、お忙しそう。

 壁際にある棚の上には、大きな船の模型やイカリの形をした置物、望遠鏡などが置かれています。

 冒険心に溢れた人なのでしょうか?


 テオフィル様に座るように言われ、私たちは、着席しました。


「なんとなく予想はついていたけど、思っていたより早かったかな」


 会いにくるだろうという予想が当たって嬉しそうなテオフィル様。


「話を訊く相手。君が誰を選ぶのかちょっと興味があったんだ」


 面白がられている?

 私が選んだのはテオフィル様なので、真摯に話していただきたいです。


「それで?」

「……単刀直入におうかがいします。テオフィル様は、私のことを公表するか否か、どうお考えですか?」


 ふむっと彼は小さく呟いた後、小首を傾げます。


「それは、公人、個人……どちらの意見を求めているのかな?」

「どちらもです」


 片方では不十分です。

 満足そうなテオフィル様の微笑。

 腹黒さが滲み出ているようで、おっかないです。


「そう。……そうだな。公人としては、公表するべきだと思うよ。王家と辺境伯家の結びつきを考えれば、公にしないでも一定の効果は得られるけど、公表する影響力の方がはるかに大きい」


 普通は、そう考えますよね。


「個人としては……まあ、どちらでも構わないかな」

「そうなんですか?」


 あっさりした口調に、拍子抜けです。


「君が心配しているのは、公表することで、不利益を(こうむ)る人がいるんじゃないかってことだろう?」


 心を見透かされているようで、どきりとします。やはりこの方は、侮れません。


「いないと言い切るのは、難しい。

 特に何も知らないアンジェリカは、驚くだろう」


 その名前が出てきたことに冷や汗をかきます。アンジェリカ王女殿下……彼女を妊娠中に浮気……絶対に傷つきますよね。


「ただ、陛下は公にすることを望んでいるだろうね。なにしろ君は、父が唯一愛した人の忘れ形見だから」

「……唯一?」


 王妃殿下……は?


「裏切った裏切られたという話なら、先に裏切ったのは、王妃殿下の方」


 隣に座っていたクラウス様の息を飲む音が聞こえました。


「どういうことなんだ、テオ?」

「勘違いするなよ? 僕たち、きょうだいの中に、母の不貞の証がいるとかそんな話じゃない。

 父と母は、まだ愛や恋など知らない内に婚約を結んだ。嫌い合っていたわけじゃないし、むしろ仲は良かった。

 ただ、それは兄妹とか、ともに国を支える戦友みたいな関係だ」


 完全な政略結婚。

 貴族の中では、特別珍しくもないこと。

 国王夫妻は、仲睦まじい。という話を聞いたことがあります。

 不仲ではなかったのでしょう。


「そんな中で、母は父ではないある男性に好意を持った。だけど、彼女は次期王妃として、気持ちを押し殺し、誰にも話すことなく人知れず忘れようとした。

 父は、それに気がついていたようだけどね。

 幼い頃から王妃となる運命が与えられている母の想いを叶えることは、許されない。

 それに……母の想い人には、ちゃんと相思相愛の婚約者がいた」


 誰もが愛する人と結ばれるわけではない。位が高くなればなるほど……許されない想い。


「両親は婚姻を結んだ。

 あくまでも、次期王とその妃として、2人は支え合った。

 父は母を大切にしようとしていたよ。けど、母は違った。

 王妃としての務めは果たしても、いつまでも恋心を捨てられなかった。

 私的な場での父への態度は、酷いというわけではなかったけれど、褒められたものでもなかった」

「王妃殿下にはよくしてもらっていたが、そんな想いを抱えていたとは知らなかった」


 王妃殿下と面識があるクラウス様は、驚くほど低い声でそう呟きました。


「父が別の女性に心を傾けてしまったこと……僕はあまり非難する気には、なれなくてね。

 王は神ではない。ただの人間だ。

 完璧に近づけても、完璧にはなれない。

 心が弱り、乱れることもあるだろう。

 恋人の妊娠がわかって、父は母に、彼女を妾として後宮に迎えたいと伝えた。

 母も父を愛せなかった罪悪感があって……その話を受け入れた。結局、君の母上には逃げられたけどね」


 初恋の人を忘れられなかった王妃様。

 外に愛する人を見つけてしまった陛下。

 愛した人に妻がいたフェリシア母様。

 複雑な人間模様です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ