7.やっぱりひどい男でした
「アンジェリカ王女殿下がどうかしましたか?」
おそるおそる尋ねると、クラウス様はうつむいたまま呟きはじめました。
「あ、アンジェリカ様……うう……ずっと、ずっと好きだったんだ……」
ボロボロ泣いてます。この世の終わりのような顔をしています。
「アンジェリカ王女殿下が好きなんですか?」
ガバッと顔を上げたクラウス様は、私の顔を凝視してきました。
「……アンジェリカ様に初めてお会いした時からずっとお慕いしている。
私の心の中には彼女だけだ。な、なのに……昨日、君と……」
またしてもダバーっと涙を流しています。昨日とは、初夜のことでしょうか?
いまさら後悔しても、時間は戻りませんよ。
しかし、クラウス様がアンジェリカ王女殿下を好きだとは、それならなぜ婚約破棄に?
「アンジェリカ王女殿下は、どんな人なんです?」
クラウス様がガシッと私の肩を掴んできました。指が肩に食い込んでます。痛いので、やめてください。
「き、聞いてくれるか!?」
「は、はあ」
あまり顔を近づけないでほしいです。涙はともかく鼻水がつくと汚いので。
クラウス様は遠い目をしながら話し始めました。
あ、こういうところ、親子そっくりですね。
「彼女と初めて会った瞬間、恋に落ちた。
美しいプラチナブロンドの髪がフワフワと風に揺れ、日の光を浴びて輝いていたんだ。
エメラルドのようなキラキラした瞳でジッと見つめられると、心がぞわぞわした。
少しわがままなところはあったが、そこがまた可愛くて……ずっと私が護るのだと、そう誓ったんだ……」
うわー、もう涙と鼻水で、美形が台無しですね。
五割減です。
美形が普通の人になりました。
それでも普通の人でおさまるのがすごいですね!
「そんなに好きなら、なぜ平民の女性と浮気しまくっちゃったんですか?」
あらあら、クラウス様が固まっちゃいました。
うーん、つい遊んでしまったってことですかね?
王都まで距離があるから、バレないと高をくくっていたのでしょうね。
全くだらしがない。浮気するならせめてバレないようにするのが礼儀でしょうに。
相手が好きなら尚更です。いや、好きなら浮気はダメですね。
「私は……わた……しは……」
意識を失ったのか、クラウス様は後ろに倒れ、ソファーに身体を投げだしました。
あ、眠ってますね。ぐっすりお休みです。
「弱っ!」
2杯でダウンって弱すぎでしょう。
いや、それより……気持ちダダ漏れ。
つまりクラウス様は、王女様を愛しているのに、欲望に勝てず浮気を続けた。結果、婚約破棄されて今は心の中で泣いている。
うん、クズですね。
そりゃ、浮気やろうは嫌ですよ、王女様だって怒りますよ。なんでそんなことをしたんですかね。
自業自得、同情もできません!
それよりここで寝ないでください。邪魔です。
誰か呼んで部屋に運んでもらいましょう。