69.全面的に感謝します
我がクベリーク国は、原則一夫一妻制ですが、妾制度というものがあります。
これは、もともと正妻の保護のために作られたもの。
その昔、子供ができないという理由で妻が離縁され、その後苦労するという事例が多くありました。
貴族が子供をなすことは避けられないですが、白い結婚だったり、夫に問題がある場合でも、妻に責任を押し付けて離縁するなんてことがあったわけです。
そこで、作られたのが妾制度です。
正妻の権利を保障しつつ、別の女性に子供を産んでもらい、代わりに扶養する契約を結ぶというもの。
もちろん、賛否あります。
養子でもいいだろうという意見や女性の人権を無視しているなど。
恋人を妾にし、正妻を蔑ろにするなんてことも……。
そればかりか、愛する妻も子供もいるのに、妾制度を利用する人もいます。さまざまな事情を考慮して、子供がいるから、ハイ、妾は駄目とできないのです。
妾を迎え入れるには、妻の承諾書が必要。
それも偽造や抜け道があったりだとか、ややこしい跡目争いに発展したりだとか……。
妾制度は、あっても困るし、無くても困るそういうものなんです。
廃止するべき派と必要である派にわかれて、長年話し合いが持たれていると聞いたことがあります。
陛下はこの妾制度を利用しようと考えたわけですね。うん、最低。
続けて、お実父様……いや、実の父親が陛下ならば、ソニオ父様は、実際は伯父様?
頭がこんがらがってきました。
「妊娠したから、しばらく厄介になると、フェリシアは、コウトナー男爵家に戻ってきたんだ。
あの時は、荒れたよ。マリアンヌがかなり怒っていた。相手は誰だと問い質したけれど、フェリシアは結局最後まで答えなかった。
君は彼女のお腹の中で順調に育ったが……フェリシアは、レティを出産した後、産後の肥立ちが悪くて……亡くなってしまったんだ」
フェリシアお母様。
ずっと叔母様だと思ってたので、複雑な気持ちです。
「私たち、血の繋がりはない……んですか?」
「レティ」
今の話が本当なら、産みの母、その姉の旦那さん。つまり、私とソニオ父様は血の繋がらない関係です。
なんだか、悲しくなってきました。
「例え血の繋がりはなくても、私にとってレティは、大事な娘だよ。君は、私が嫌かい?」
「そんなことありえません! 私はソニオ父様が大好きです」
「うん、ありがとう」
慈しむように頭を撫でるソニオ父様。
いつも優しくて、大切にしてくれました。今更、実父じゃないと言われても、お父様には変わりません。
ほのぼのしていると、陛下が声を大にしました。
「わ、私だって諦めたわけじゃないんだぞ! フェリシアには何通も手紙を出して……。だが、彼女が出産後亡くなったと聞いて……いても立っても居られなくなり、コウトナー男爵領まで行ったんだ!!」
いやぁ、もう、なんかねぇ? 思わず冷たい視線を向けてしまったのは仕方がないと許してください。
「だが……コウトナー男爵夫人にフェリシアと同じことを言われたよ。君を引き取るにしても、母親のいないレティシアが王宮で暮らして、果たして幸せになれるのかと……。
後ろ盾もない、護るものが私しかいない。
そんな状態でレティシアは、渡せないとね。
男爵家の娘として、平穏に暮らしてもらう……それしかできなかったんだ」
それについては、全面的に感謝します。
王宮で暮らすより、ずっと良かったはず。
家族が大好きですもん。