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68.クズなのは

 重苦しい雰囲気の中、空気を変えるように、パンパンっと手を叩く大きな音が耳に届きました。


「さて、そろそろ本題に入ろうか? 彼をここへ」


 陛下が発した言葉の意味がわからず、クラウス様に視線を向けると、困惑した様子で見つめ返されました。

 お義父様とテオフィル様は、動揺しているようには見えないので、何か知っているのでしょうか?


 ソワソワしていると、入室してきた男性の姿を見て、思わず立ち上がります。


「お実父様!?」


 そう、父のソニオ・コウトナーです。


「レティ、久しぶりだね」


 いつものようにおっとりした笑顔で佇むお実父様。元気そうでなによりです。

 黒に近い灰色の髪は、以前より短くなっていて、若干太りましたかね?

 近づいてきたお実父様が、両手を広げました。


「さあ、私の可愛い娘。抱き締めさせてはくれないのかい?」

「お実父様」

「元気そうで安心したよ。ずっと心配していたんだ」


 あまりの嬉しさに、胸に飛び込みます。本物です。懐かしい匂いに、故郷を思い出し、ちょっぴり感傷的な気分。


 自分がいる場所がどこなのか頭からすっぽりと抜け落ちていましたが、陛下の声にハッとします。


「コウトナー卿。それは、()への当てつけかな?」


 こんなところで感動の再会を喜んでいる場合ではないと、慌ててお実父様から離れます。

 えっと、当てつけ? 何のことでしょうか?


「……そのようなつもりはなかったのですが、娘との再会が嬉しくて、つい……申し訳ございません」


 頭を下げるお実父様に、私もならいます。

 無作法なふるまいをしてしまいました。


 失敗したなと思った瞬間、ダンっと椅子を倒す勢いで立ち上がり、手を広げたのは陛下でした。


「もういいだろう。さあ、レティシア! 私の胸に飛び込んでおいで!!」

「……はい?」


 なんでしょうか、今幻聴が……。そろそろ耳掃除をした方がいいかも。


 はあっと呆れたように、ため息をつくテオフィル様。


「陛下、彼女が混乱しています。それでは、ただの若い女の子好きの変態です」

「な!? そんなことはない。私は変態じゃないぞ」

「わかってますから、ちゃんと説明してあげてください」


 咳払いをした陛下と見交わします。


「……レティシア・ドワイアン」

「は、はい」

「君は、私の娘だ」

「……はい?」


 今度こそ私は頭がおかしくなってしまったのでしょうか? 不安になってお実父様を見上げると、彼は私の肩をポンポンっと撫でるように叩きました。


「レティ。……私がコウトナー男爵家に婿入りしたのは知っているよね?」

「はい」

「コウトナー男爵家には、2人の姉妹がいた。姉のマリアンヌと妹のフェリシアだ」


 マリアンヌはお実母様の名前で、フェリシアは叔母様の名。

 叔母様は、私が生まれた頃に亡くなったと聞いています。私の名前は、叔母様がつけたとお実母様が教えてくれたため、名付け親でもあります。


「レティの本当の母親は、フェリシアなんだ」

「……え?」

「驚くよね。……何から話せばいいか。フェリシアは、なかなか行動力のある女性でね。

 彼女は、金持ち貴族を捕まえてくる! と言い残して、王都に旅立ったんだ。もともと優秀な子だったから、王宮で女官の仕事を手に入れた」


 積極的なご令嬢だったのですね。なんだか、バルと近しいものを感じます。

 すると、今度は陛下が懐かしそうに語り出しました。


「私とフェリシアが出会ったのは、王都にある食堂だった」


 ……なんで、そんなところに陛下がいるんですか?


「その頃、王太子だった私は、たまに変装して市井の生活を体験していたんだ」


 危なくなかったんですかね? 密かに護衛がついていたのでしょうか。迷惑なんじゃあ?


「たまに顔を合わせる程度だったが、彼女は明るくて、話題も豊富……一緒にいると楽しくて時間を忘れてしまった。そんな、私たちが惹かれ合うのも当然の成り行きだった」


 あれ? なんか素敵な話のように語っていますけど、陛下って……その時、既婚者ですよね?


「そんなある日、フェリシアの妊娠が発覚した。それが君だよ、レティシア」


 いやぁ。ちょっと、どうなんですか?

 えっと……私、アンジェリカ王女殿下と一歳しか違いませんよね……。つまり、陛下は妻の妊娠中に、浮気したってことですか?

 クズじゃないですか。

 不敬になるから言えませんけど。


「私は、自分が王太子であることをフェリシアに伝え、愛妾として彼女を迎え入れたいと提案した……」


 うわぁ。王太子だってことも黙ってたんですか?


「そうしたら……殴られたよ」


 今や威厳のカケラもない、しょんぼり顔の陛下。殴られて当然です。


「後ろ盾のない男爵令嬢が、王宮で生活など絶対に無理。王太子だと隠していた男なんて信用できるか! と……すごい剣幕で、実家に帰ってしまったんだ」


 そりゃ、帰りますよ。私でも帰りますよ。

 何してくれちゃってるんですか、陛下。

 殴ったことで、フェリシア叔母様を罰しなかったのは、まあいいとして……あなたの印象ががらりと変わりましたよ。

 この現状をどう受け入れていいのか、わたしには全くわかりません。


 頭が痛くなってきた。こちらに、お医者様はいらっしゃいませんか?

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