62.計画の全貌(過去)
計画を進めるにあたって、重要なのは、誰を協力者に引き入れるかです。
人選は、私よりお義父様が最適と思われるので、お任せしました。
クラウス様は人がいいので、コロッと騙されそうですからね。
悪口じゃないですよ、むしろそれが長所だと思っています。
私がよく知っている人で、協力者に選ばれたのは、モニカとバル。それから、ヤーナさんとハミルトン様です。
それから、偽白カラスに誘拐される役ということで、名前だけお借りするのがルルナちゃんです。
私と仲が良くて、代わりに狙われても不自然じゃないという理由からです。
もちろんヤーナさんから、ちゃんと了承を得ていますよ。
作戦決行時には、しっかりと安全な場所で匿うことになっています。
偽白カラス用の衣装も用意しました。くちばしのついた白い仮面も、目撃した私とモニカとバルが、あーでもない、こーでもないと説明しながら、作ってもらいました。かなりいい出来栄えだと、自負しています。
服はとにかく黒色で、クラウス様の目立つ真っ赤な髪が隠れるようなフード付きのローブにしました。
お義母様の要望で、上質な生地を使っています。すべすべさらさら。
舞台となる場所は、街外れにある廃墟になった教会です。その提案をしたのは、クラウス様。そこなら、近くに民家もなく、人があまり近づかない場所なので、誰にも迷惑をかけないとのこと。
周辺は木々が多く、兵を配置する時、身を隠す場所が多いのも選んだ理由だそうです。
時間を午後の4時にしたのは、仮に白カラスの逃亡を許した場合、辺りが暗いと追跡が困難だからです。暗くなる前に決着をつけるため、この時間になりました。
それだけでなく、騒ぎから約束の時間までを最短にすることで、白カラスに熟考させる時間を持たせないためでもあります。
騙すには、衝動的に行動してもらうのが望ましいのです。
準備の最中も、不審がられないように普段の生活を心がけました。
そうこう準備している間に1ヶ月が経ち、計画の決行日がやってきたというわけです。
ヤーナさんの演技が特に素晴らしいです。本当に涙を流していますし、悔しそうで、辛そうで、嘘だとわかっている私でも胸が苦しくなり、目が潤んでしまいました。
舞台女優……ではなく、ヤーナさんは、今回一番の功労者です。
ハミルトン様もなかなか迫真の演技でした。
2人は客室に引っ込んだ後、密かに廃墟に向かっていることでしょう。
えっと……クラウス様は、ちょっと表情が堅かったですが、問題ないです。
玄関ホールで一連の芝居をうったのも、内通者に情報が流れやすいようにです。派手に連行されて自室に閉じ込められた私は、脱出を試みます。
脱出用に、クラウス様が窓の外にハシゴをつけると言い出した時は、全員で却下しました。
何それ、バレバレじゃないですか。
こうして私が屋敷を飛び出して、ルルナちゃんを助けに向かったと、モニカや脱出する私を目撃したと証言する役の使用人たちが騒ぎを起こしてくれるでしょう。
ルルナちゃんの命がかかっているので、追いかけるかどうかと揉めたり、お義父様やクラウス様に報告をと慌てたり……皆さんの演技力に掛かっています。
後は、それに内通者と白カラスが釣られてくれるかどうかです。
廃墟の教会に向かう間、1ヶ月で驚異的な回復力を見せつけたバルが、密かに護衛としてついてきていました。周囲には、まだ完全に復活していないと認識させていたので、比較的、自由に動けるのです。
無事に廃墟に到着し、本物の白カラスが現われたことにホッとしました。
盛大なる茶番劇でしたが、私たちは賭けに勝ったのです。
さあ、覚悟してください。
あなたは袋の鼠です。