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57.白カラス

 なかなか寝付けなくても、身体を休めなければと、半ば強引に睡眠をとりました。

 翌朝、早く目が覚めた私は、よく晴れた空を窓から眺めながら、自分にできることを考えていました。


 ぼうっとしていると、モニカがやって来て朝の準備が始まります。

 鏡台の前に座った私は、髪を梳かしてくれている彼女にどうしても聞きたいことがありました。


「モニカが、湖で助けてくれたの?」


 ゆっくりと、丁寧な手つきで櫛を動かすモニカは、表情を崩すことなく答えます。


「はい。黙っていて申し訳ございません」


 やはりそうでしたか。湖で襲われた時、男の背中に刺さった短剣が、三日月のような形をした珍しいものだったとクラウス様が話していました。

 そして、昨日彼女が使っていたのも、同じ形をしたもの。


「あの時は、助けてくれて、ありがとう」

「……怒らないのですか?」

「助けてくれたのに、なぜ怒る必要があるの?」


 不思議なことをいうモニカですね。私はちゃんとお礼が言える女ですよ。


「そりゃあ、なんで黙ってたのかは気になるけど」


 隠す必要はない気もしますが、なにか理由があるのでしょうか?


「……主様(あるじさま)より、陰からお護りするようにと言われております。強さを隠すことで、相手を油断させられますから」


 お義父様が? 確かに、今回は、モニカのお陰で助かったと言っても過言ではありません。

 私一人では、あのならず者たちにやられるのも時間の問題……命拾いしました。


「一緒にいてくれてありがとう。モニカは、命の恩人だわ」

「もったいないお言葉です」

「じゃあ、モニカが強いことは、誰にも言わないでおくね。昨日見られた人には、知られたかもだけど……。これからも頼りにしてる。よろしくね」

「はい、ありがとうございます」


 戦う侍女さん、いい響きです。これから何が起こるかわからない状況なのです。戦闘力の増強は重要です。


 準備が終わり、朝食をすませた後、クラウス様とバルの見舞いへ行くことになりました。話を聞きたいからとお義父様も同行しています。

 彼は怪我を負っていたので、使用人が暮らしている別棟ではなく、本館1階の客室で休んでいるそうです。


 客室に行くと、彼はベッドの上で身体を起こして座っていました。身体中包帯だらけ、顔にも傷があり、痛々しく、目を背けたくなります。


「よお、レティ。元気か?」


 言葉が出ない私に、バルはいつものように明るく声かけてきました。傷のせいでいつもの笑顔が上手く作れない様子に、グリっと胸を鷲掴みにされたように苦しいです。


「バル……ごめんなさい」


 やっとで出した小さな声。


「はあ?お前が謝ることじゃないだろう。俺の方こそ、護衛としては失格だった。

 ちゃんと護ってやれなくて悪かったな」

「そんなことない。バルがいなかったら、私……」


 涙が溢れて出そうになったため、唇を噛み、我慢します。泣いちゃ駄目だ。痛いのはバルなんだから。


「あー、泣くな泣くな。いいか、俺の仕事は、お前の護衛だ。ちょっとした怪我ぐらいで、めそめそすんな」

「全然、ちょっとした怪我じゃない」


 なに軽症みたいに言ってるんですか。重体じゃないですか。


「大したことねぇよ。もっとひどい怪我を負ったこともある」

「そうなの?」

「とにかく、俺は大丈夫だ。

 それより、旦那様と、クラウス様に話したいことがあるんです」


 もうお前に用はないと言わんばかりに、バルはしっしっと私に向かって手を払います。

 ひどいです、心配してるのに!!


「話とはなんだい?」


 冷静に聞き返したお義父様に、バルは真剣な面持ちになります。


「昨日襲って来た白い仮面……あれは、殺し屋です」

「なんだと?」

「王都じゃ、ちょっと名の知れたやつなんですよ。くちばしのついた白い仮面……巷では、白カラスと呼ばれてます」


 有名人? あの仮面がカラスといえば、カラスのくちばしにも見えないこともなかったような……。


「白カラスは、あの仮面と殺した相手の身体に、傷をつけるのが特徴です。丸に縦横の線を入れるんです」


 その場にいた全員がヒュッと息を呑みます。丸に縦横の線……その印は、クベリークの国教であるライリース教のシンボルマークです。

 創造主である唯一神ライリース。

 簡単に言えば、全ての存在を創造したのは、ライリース神であるという宗教です。


 白カラス……殺し屋なのに信心深いとは、なんの冗談ですか?

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