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55.落ち込みます

「シア!!」


 慌てた様子で近づいてきたクラウス様は、しゃがみ込み、心配そうに私の顔を覗き込んできました。


「怪我はないか?」

「…….はい。でも、私よりバルが、馬車に轢かれて怪我をしています」

「わかった」


 クラウス様に声を掛けられた部下の人が、バルの方に駆け寄ります。どれほどの怪我を負ってるのかわからないので、とても不安です。無事だといいのですが。


「立てるか?」

「は、はい」


 手を差し出された私は、クラウス様に掴まり、立とうとしますが、足が震えてうまく立てません。フラついてしまい、恥ずかしい限りです。


「うきゃ!」


 ふわりと抱き寄せられると、そのままクラウス様に抱き上げられました。横抱きにされたはずみで、彼の首に手を回し抱きついてしまいます。

 安定はしていますが、落ちたら嫌なので、手が離せません。


「ひ、一人で歩けますから」

「いいから、大人しくしていなさい」

「……はい」


 人前でこの体勢は、どうなんでしょうか? 周りの人たちが敢えてこちらを見ないようにしているのは、気のせいだと思いたい。

 しかし、まともに歩ける気がしないので、大人しくせざるを得ません。暴れても、落とされるだけです。


 その時、ちょうどバルが、2人の兵士に支えられながら歩いていくのが見えました。意識はあるようなので、少し安心できました。後は……。


「モニカは、どこでしょうか?」

「レティシア様、ここにいます」


 いつの間にか、クラウス様の後ろに控えていたいつもと変わらないモニカ。


「怪我はない?」

「はい、なにもご心配には及びません。レティシア様もご無事でなによりです」

「うん。モニカ、あの……」

「まずは屋敷に戻って身体をお休めください。今は気持ちも昂ぶっておいでですので、落ち着いてから、お話をおうかがいします」

「う、うん」


 聞きたいことがたくさんあったのだけど、たしかに今日はとても疲れました。

 頭もちゃんと働いていない気がします。

 そんな私の背中を、ポンポンっと優しく叩くクラウス様。


「シア、一緒に帰ろう」

「……クラウス様はここに残らなければならないのでは?」


 隊長の彼が、この場から離れるのは、褒められたことではないです。ここでの責任者ですよね。


「妻が辛い思いをしている時に、側にいない夫など、そんな薄情な男にさせないでくれ」

「クラウス様……」


 これには、ジーンとしました。心がポカポカと温かくなります。いざという時に、寄り添ってもらえないのは、淋しいですからね。


 ハミルトン様に後を任せたクラウス様は、愛馬のアレックスにまたがり、軽々と私を持ち上げて、膝の上に乗せました。守られているようで、くすぐったいものの、なかなか快適です。


「シア、怖かったろう。もう大丈夫だからな」

「助けにきてくださって、ありがとうございます。でも、どうしてここがわかったんですか?」

「ああ、バルトロが領民に伝言を頼んだんだ。それに、孤児院の倉庫で、うちの御者が縛られているのが見つかって、院長から連絡がきた」


 馬車が出発した時、既に御者はすり替わっていたということですか。気がつきませんでした。

 偽御者は、馬車ごとバルにぶつかってそのまま逃げ去り、あの森の中に私たちを置き去りにした。


「本当に無事でよかった。……シア、しばらく外出は禁止だ」

「え!?」

「当たり前だろう。バルトロも怪我をしているようだし、これ以上危険な目に合わせたくない。……もっと早く助けに来られたら良かったのだが、すまない」


 全く悪くないクラウス様に謝られました。お腹に回された彼の手に、ギュッと力が入ります。


「言っただろう、君を失いたくないんだ」


 今にも消えてしまいそうな切ない声に、胸がキューっと締め付けられます。私は、なんとか生きてますから、そんな声を出さないで下さい。悲しくなります。


「しばらく、外出しません。心配かけて、ごめんなさい」

「ああ」


 ホッとしたのか、クラウス様の手が少し緩みました。


 バルが怪我をして、モニカも危険な目に遭わせました。

 やるせない気持ちがこみ上げてきます。


 あの白い仮面は、確実に私を狙っていました。

 悔しいことに、手も足も出ませんでしたし、卑怯な真似をされたら、ひとたまりもないことがわかりました。


 私は、何もできなかった。とても悔しいです!

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