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50.黒い腹

 少々、ドギマギしていましたが、クラウス様に聞きたいことがあるのです。


「ところで、クラウス様は、今回のことをどこまで知ってたんですか? 王太子殿下のこととか……」

「それは……」


 ちょうどその時、モニカがやって来ました。


「王太子殿下が、お二人に話があるそうです」


 そう伝えられた私たちが、お互いに顔を見合わせたのは仕方がないことでした。

 王太子殿下の呼び出しを無視できるわけもなく、私たちは、彼が泊まっている部屋へと向かいます。

 部屋の前で、護衛にジロジロと観察されながらも、中に通されました。

 私が泊まる予定の部屋より、一回り以上広いです。一国の王太子殿下への配慮がうかがえます。


 先程は、ゆっくり見られなかった王太子殿下。

 アンジェリカ王女殿下が華やかな美しさであるなら、彼は、爽やかな印象があります。


「わざわざ来てくれて、ありがとう」


 満面の笑みを浮かべながら迎えてくれた王太子殿下は、ソファーに座るようすすめてくださいました。


「さっきは、ちゃんと挨拶できなかったね。久しぶり、クラウス。それから、はじめまして、ドワイアン夫人」

「お久しぶりです。テオフィル王太子殿下」


 クラウス様の後に続けて、私も挨拶をします。

 おちゃらけたように、王太子殿下は肩を竦めました。


「嫌だなクラウス。いつものように呼んでよ」

「……テオ。いろいろとすまなかったな」

「それは、こっちのセリフだよ」


 軽い口調の2人。会話を聞いていると、仲良しさんのようです。王太子殿下を愛称呼びとは、やりますねクラウス様。


「ドワイアン夫人も公の場でなければ、気軽にテオって呼んでくれていいよ」

「え?……はい。ありがとうございます」


 そんな畏れ多いことができますか。いや、できません。テオフィル様は、親しみやすい方のようです。


「そうだ。ヘルツベルク王がうまい赤ワインを用意してくれたんだ。クラウスも飲むだろう?」

「外出先で絶対に酒を飲むなと言ったのは、お前だろう」

「んー?まあいいじゃないか。ここには、僕と君と彼女だけだし」


 なんてことでしょう。

 以前クラウス様が話していた、一緒にお酒を飲んだことがある友人。それが、テオフィル様なのですね。

 唯一、クラウス様の豹変を知っていた方。

 彼は、酒をつぎ、クラウス様に渡します。それをハラハラしながら私は見つめました。


「2人が仲良くやっているみたいでよかったよ。さっきのクラウスもカッコよかったしね。いいもの見られた」

「……茶化さないでくれ」

「茶化してないさ。これでも心配していたんだよ」


 それはそうですよね。クラウス様の酒癖を知っているのなら、王女殿下への気持ちも知っていた可能性が高いです。


「変なことに巻き込んで悪かったね。特に夫人には、混乱することばかりだったろう?」


 その通りです。ちゃんとした説明を求めます。


「今回、あの子の性格上、クラウスに助力を求める可能性は視野に入れていたんだ。だから前もってクラウス宛に手紙を書いておいたんだよ。

 妹を連れて、ヘルツベルク国へ夫婦で向かってくれと。僕も後から追いかけるからってね」


 王女殿下の護衛が、クラウス様宛に手紙を渡していました。差出人は、テオフィル様だったようです。


「都合が良かったんだ。アンジェリカが君たち2人に同行する。それによって婚約破棄の件で、王家とドワイアン家の間にわだかまりはないと知らしめられる。

 アンジェリカは、ユリウス王子が強い意志を持って北の地で領主になることに感銘を受けて、自らも共にし、支えると決意する。

 なかなか、民衆が好きそうな話だと思わない?」


 笑顔の裏に、とっても黒い腹が隠れている感じがしますね。恐ろしやです。怒らせては駄目な人種です。


「あの2人には、もっと成長してほしいからね。

 少し厳しい環境に行ってもらうことになったわけ。

 別に追放するわけじゃないし、手助けも惜しまないつもりだよ」

「しかし、2人の様子では、アンジェリカ王女殿下は……」


 そこまで言葉にしたクラウス様は、ハッとしたように私を見ると、サッと視線を逸らしました。

 アンジェリカ王女殿下を心配していることに、気まずさを感じているようです。

 仕方がないでしょう。慕っていた元婚約者の不幸を願っているとか言われる方が困ります。


「2人の仲は大丈夫なのでしょうか? 王女殿下は、ユリウス王子が侍女と浮気をしたと言っていましたが?」


 テオフィル様に質問したのが意外だったのか、クラウス様は、驚いたように目を見開いて、見つめてきます。

 私も彼女の今後が気になるんですよ。

 せっかくクラウス様が自分の身を犠牲にしてまで、王女殿下の幸せを祈ったのに、不幸になったら、悪評流し損じゃないですか。

 せめて、幸せな結婚をしてほしいです。


「心配ないと思うよ。なんだかんだ言って、あの2人は相思相愛だよ」

「そうなんですか?」

「浮気もね、アンジェリカの勘違い。よくあるでしょう? 倒れそうになっていた女性を抱きとめた恋人を見た女性が、抱き合っていたと勘違いする。その程度のすれ違いだよ」


 よくあるんですか? ドジっ子侍女ですか? 仕事に差し支えがありませんかね。


「すれ違いを解消するのは、2人の努力次第だけどね」


 恐ろしいことに、テオフィル様は、クラウス様の空になったグラスに2杯目のワインを注ぎました。

 ……さすがに王太子殿下の前で、エロスな人は出てきませんよね?

 出ないで!!

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