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49.意外な困惑

 その日は、ヘルツベルク国王のご厚意により、王宮に泊まることになりました。

 王女殿下は、ショックのあまり寝込んでいるそうです。仕方ありません、今日一日で、彼女の人生が一変してしまいましたからね。

 早く立ち直ってほしいものです。


 私はというと、準備された部屋で、クラウス様の言葉をどう受け止めていいのか思案しています。


 客室とはいえ、さすが王宮の一室です。天蓋付きのベッドは、お姫様気分を味わえますし、色鮮やかな花をモチーフにした絨毯は、とてもフカフカして、窓からは庭を一望できます。


 はあ、ついつい現実逃避してしまいました。

 クラウス様、本気なんでしょうか?

 黙すことはあっても、嘘をつくような人ではないと思いますが。


 そもそも、ずるいですよ。

 お酒を飲んでも重要なことは、話してなかったんです。アンジェリカ王女殿下のためを思って、自ら悪役になったなんて……。

 そんなこと、ちっとも言わなかったじゃないですか。


 私に気を遣って、アンジェリカ王女殿下の提案を否定してくれたんでしょうか。それはあり得る気がします。クラウス様は、優しいですから。


「シア?」


 突然声が聞こえ、振り返ると不安そうな表情が滲み出ているクラウス様がいました。

 いつのまに、部屋の中にいたんですか!?


「勝手に入ってすまない。ノックをしたんだが、反応がなかったので、心配になってな」

「え? す、すみません。気がつきませんでした」


 慌てて立ち上がり、私はクラウス様を見上げます。

 無理だ。

 直視できず、目を逸らしてしまいました。


「シア、すまなかった。あんな形で気持ちを伝えるつもりじゃなかったんだ。今回の件が落ち着いてから、あらためて、しかるべき場所でと思っていたのだが……」


 クラウス様を窺うと、頬がうっすらと赤みを帯びて、涙目です。

 本気……なんですね。


「その、びっくりしました」


 そう、突然だったから驚いたのだ。以前、酔っ払った時に口説くようなことを言われたけれど、あれはそういうのじゃないと思ったから。


「今日は、驚かせてしまって、本当に申し訳ないと思っている。少し話を聞いてくれないか?」

「…….はい」


 いつものように2人ともソファーに座ります。ただいつもと違うのは、隣同士に座っているということです。向かい合わせのソファーがないのです。なぜこのような作りにしたんですか。


 まるで重大な秘密を暴露するかのように、深刻そうで、険しい表情のクラウス様が、話し始めました。


「私は、アンジェリカ王女殿下をお慕いしていた」


 はい、知ってます。思い出話もほとんど知っています。秘密でもなんでもありません。しかし、苦悶の表情を浮かべているクラウス様に、お伝えすることはできません。


「一年ほど前になるか。テオフィル様に呼び出されて、アンジェリカ王女殿下が視察に訪れていたユリウス王子と懇意にしていると聞いた。

 とにかく一度、話そうとしたんだが、彼女はユリウス王子しか見ていなかった。

 納得はしたんだ、それまで一度も私を見る彼女の目に熱がないことはわかっていた。

 せめて自分にできることはと考えて……悪役になることにした。陛下や王太子殿下には止められたが、自分で決めて、自分で実行した」


 切ない。すごく切ないです。どんな思いでそう決断したのでしょうか。


「打算もあった。いずれは妻を迎えなければならないとわかっていたが、悪評が流れれば、しばらく私の結婚話は、なくなるだろうと。

 ところが、君がやってきた」


 失恋の痛手を癒す前に、妻と言われても困りますよね。

 わかります。


「正直複雑だった。君と向き合うことを恐れた。けれど、シアは何も言わず、求めず、ただ寄り添ってくれた。

 いつからか、シアのことばかりを考えるようになった。君が私を庇って危ない目に遭った時、心臓が止まるかと思った。

 それに……情けなくも、君の幼馴染に嫉妬もした。

 身勝手な話だが、アンジェリカ王女殿下のことは、仕方がないと思えたんだ。

 だが、シアのことは……何があっても自分の側にいて欲しいと思っている」


 まずい。部屋の温度が急上昇していませんかね?すごく暑いです。ほっぺたが燃えてしまいます。


「シアと一緒にいるのが心地いい。これからも私と共にいてほしい」


 思っていた以上に、情熱的です。ど、どうしましょうか。というか、私は、妻ですから離縁することがなければ、ずっと側にいます。けど、クラウス様の言っていることはそういうことじゃないんですよね。


「あ、あの。私……」


 クラウス様の目は、とても優しいものです。

 こんなこと想像してませんでした。あくまで政略結婚で、愛だの恋だのなくて……けど、決してクラウス様のことが嫌いという訳ではありません。


「無理強いをするつもりはない。シアの嫌がることはしたくない」

「あ、いえ。嫌とかではなく。戸惑っているといいますか……」


 嫌いなわけありません。結婚してから、よくしていただいていると十分理解しています。


「これから、夫婦として長い時間を共有していくんだ。ゆっくり考えてくれたらいい。私は、君に振り向いてもらえるように頑張るよ。

 ただ、後悔しないように伝えたいことは言葉にすると決めたんだ」


 穏やかな表情のクラウス様に、私は了承の意味を込めて、コクリと頷きました。彼の笑顔は、破壊力がすさまじく、少しだけキュンとしてしまいました。

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