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43.石ころ

 隣国へ向かうことが決まったものの、すぐにというわけにはいきません。準備もありますからね。

 王女殿下は相変わらず傍若無人です。たまにお義母様のこめかみがピクピクしているのを見ると、いつ爆発するのかと戦々恐々としております。


 王女殿下と私は、ほとんど没交渉。

 というより、彼女の目には、私など道端に転がる石ころと同じように見えるのか、近づかれることも話しかけられることもありません。その方が気楽ですけどね。


 お付きの人なんかは、大変だなと思います。パパッと彼女の希望に対応しています。あれだけの技術があれば、どこででも勤まりそうですが、やはり王宮の仕事は、お給金がいいんですかね。


 もしクラウス様との婚姻がなければ、私も王都へ行き、女官になって、功績をたくさん残すような仕事をばりばりとこなして、すごく偉い人になっていたかもしれません。それも楽しそうですね。


 さて、今日も今日とて自由に振る舞う王女殿下を見ながら、バルが呟きました。


「すごいよなあ、あの王女様」


 綺麗な庭を眺めながら、お茶の時間を楽しんでいた王女殿下は、紅茶の温度がぬるいと怒っています。なんでも朝から髪型がイマイチ決まらないと、機嫌が悪かったよう。

 侍女たちは頭を下げて謝っていますが、王女殿下は怒鳴り散らしています。


 そんな彼女たちの様子を、庭で散歩していた私たちは目撃しているわけです。


「あそこまででは、なかったんだけどね」


 憐れんでいるような、悲しんでいるような、そんな表情で私たちの後ろに立っていたのは、お義父様でした。


「身勝手ではあったけれど、あんな癇癪を起こす方ではなかったんだよ。無条件に愛してくれた王妃殿下が亡くなってから、ますます振る舞いがひどくなったんだ」


 母親が亡くなって、精神的に参ってしまったのですかね? そう思うと、ちょっと気の毒……いや、あんまり思いませんね。


「どなたも諌めなかったんですか?」

「いいや。陛下や王太子は、指摘してたんだよ。

 王妃殿下が存命の時は、彼女に一蹴されていたんだ。

 崩御後、諌められた王女殿下は、なぜいきなり厳しくするのかと、余計に拗らしてしまったんだよ」


 お義父様は、はあっと大きなため息をついています。それは難儀ですね。


「アレじゃあ、レティの方がまだマシだ。クラウス様も助かったんじゃないか」

「バル。そういうのは、不敬って言うんですよ」


 王女殿下をアレ呼ばわりはいけません。

 もし聞かれたら、私が責任を取らされるじゃないですか。それは嫌です。


 私は影のように目立たず、王女殿下から不興を買わないように全力で気配を消しますよ。頑張れ、私。

 石だ、私は道端に転がる石なのです。


 こうして、お義母様の血管がキレそうになった頃、ヘルツベルク国へ向かう準備が整いました。

 私とクラウス様、護衛数人とモニカ。それから同行者として王女殿下ご一行が出発することになりました。


 いったいどうなることやら、不安しかありません。

 何事もなく平穏に済むといいのですが、儚い夢ですかね……。

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