34.猫ちゃんに会いに行く
バル兄様が護衛についたことで、自由なお出掛けが解禁になりました。やったー。
クラウス様は終始気に入らない様子でしたが、きっとバル兄様を知っていけば好きになるはずです。
バル兄様は、五男坊で、更に下に二人の弟がいます。子爵夫人がどうしても女の子が欲しいと頑張っちゃったんですね。結局男7人兄弟という結果になってしまいました。
兄弟が多く、人付き合いが好きなため、彼はバルと呼ばれ親しまれていました。
護衛がついたのなら、早速お出掛けです。
本日の行き先は、ポールソン孤児院です。ルルナちゃんが暮らしているところですね。
実は、恋の季節から帰ってきたラウラちゃんが妊娠をしたそうです。まだチビ猫ちゃんが生まれるまで時間はありますが、気になって気になって、様子を見に行きたかったのです。
孤児院の一階には、子供たちが集まって遊んだりする広間があります。その一画に、ラウラちゃん用のベッドが置かれているのです。
大きな籠の中に、ふかふかのクッションを敷いて、ラウラちゃんは、気持ちよさそうに寝転がっています。
「少し、お腹が膨らんできましたかね?」
「うん。最近は食欲も出てきたの。たくさん食べて、いっぱい寝てるよ」
ルルナちゃんは、嬉しそうに答えてくれました。順調そうでよかったです。
ラウラちゃんの様子を確認した後、子供たちと一緒に遊びました。部屋の中で本を読み聞かせたり、甘いお菓子をつくったり、追いかけっこしたり、楽しい1日です。
追いかけっこに疲れた私は、院長先生が用意してくれた椅子に座って休憩中です。広間では、私の代わりにモニカが子供たちと遊んでくれています。
「しかし、お前が辺境伯家に嫁ぐとは思ってもみなかったな」
バル兄様が、しみじみとそうつぶやきました。
「私も驚きですけど、こんなところでバル兄様に会った方がビックリしました」
「……さすがに、バル兄様はなしだな。バルでいいぞ。レティは、俺の雇い主だからな」
「バル。なんだか変な感じですね。呼びにくいです」
「慣れろ」
「はあ」
それが雇用主に対する態度でしょうか?
正確には護衛対象で、主はお義父様ですが。
「それで、なんで辺境伯家に雇われることになったんですか?」
「んー?ああ、退役した後、自領に戻ったんだ。そこでお前が辺境伯家に嫁いだって話を聞いてな。
……王都でクラウス様の評判を聞いてたから、ちょっと心配になったんだよ。
暇だったし、辺境伯軍にも興味があったから、遊びがてら様子を見に来たんだ。そうしたら、たまたまレティの護衛を探してるって聞いてさ。
紹介状もあったし、ちょっくら応募してみるかと思ってたら、なぜかドワイアン卿に気に入られたのよ」
王都では、特にクラウス様がひどい人間だと広まっているらしいですからね。心配してきてくれたのなら、素直に感謝しましょう。
「無職よりはいいんじゃないですか」
「……身も蓋もない言い方すんなよ」
事実ですもの。
「私は元気にやってますよ。義両親もクラウス様も領民たちも優しいです」
「みたいだな。クラウス様も想像より、お前に……」
「はい?」
「いや。優しくしてくれてるみたいだしなって」
その通りです。王都の噂なんて、嘘っぱちですからね。
「バルに……バル、クラウス様の噂って、王都ではどんな感じだったんですか?」
「ん?酷いもんだったぞ。王女殿下を嫁がさせるのは気の毒だって話になるくらいにはな。っと……悪い」
王女殿下のことを出したからか、ばつが悪そうにバルは頭の後ろを掻いています。彼女が元婚約者なのは、事実ですから、気にしてませんよ。
「全部デタラメなんです。クラウス様は、そんな人じゃないので、その話は、絶対に他でしないでくださいね」
「わかってるさ」
今まで、あまり気にしたことはなかったですが、クラウス様の噂が意図的に流されたのだとしたら、一体誰なのか。
王家とドワイアン辺境伯家の縁談を潰して、得をする人間がいるのかもしれませんが、クラウス様は調べているのでしょうか?
「まあ、元気でやってるってわかって良かったよ。母も喜ぶだろう」
「おば様は、元気にしてますか?」
「相変わらず、元気だよ」
バルのお母様は、娘がいない淋しさを、私たち姉妹にぶつけていました。可愛がられていましたが、溺愛っぷりが半端なかったです。
お世話になりましたし、なにかドワイアン辺境伯領の名産品でも送っておきましょうかね。