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28.喉乾いてます?

 森林に囲まれた細い道を、ティアに乗って進んでいきます。

 昼前だというのに、うす暗く、木々の隙間から差す光が道を照らしています。ひんやりとした風が頬を撫で、澄んだ空気で心が洗われます。


 嫌なことを全部忘れられそうです!……あれ、嫌なことないな。


 森が開け、太陽の光が眩しくて薄目になると、目の前に大きな湖が現れました。


 まだ水遊びをするには早い時期なため、湖はしんと静まり返っています。緑色の湖面と木々の葉の色が調和しており、神秘的な美しさを見せていますね。


「素敵ですね」

「眺めがいいだろう?」

「はい」


 2人とも馬から降りた後、地面に敷物を敷きました。お尻が汚れないし、冷えないために必要です。


 湖に向かって、隣同士に座り景色を眺めます。とても静かで、穏やかでゆったりした時間です。嫌いじゃありません。


「癒されますね」

「そうだな。なあ……レティシアは、子供の時はどんな子だったんだ?」


 クラウス様が私に興味を持っているようです。子供の頃の話を聞かれるのは、初めてです。


「普通ですよ。ちょっと頼りないけど優しいお実父(とう)様と、厳しいけどいつも見守ってくれるお実母様。それから面白い兄姉様たちと楽しく過ごしていました」

「家族が好きなんだな」

「はい! もちろんです。……ですが、結婚や働きに出たりして、家族は結局、離れ離れになるんですよね。少し淋しいです」


 二度と会えないわけではないけれど、そう簡単に会いに行ける距離でもない。


「すまない」

「なぜ謝るんですか?」

「いや、嫁に行くというのは、家族や友人たちと離れることなんだと改めて思ってな。私は、結婚しても変わらず家族や仲間たちが近くにいるが……君はそうじゃないんだなと。

 心細いのは当たり前だ。それなのに……私は酷いやつだな」


 クラウス様は、後悔しているのか肩を落としています。最初の態度をまだ気にしているようですね。


「家族と離れたのは淋しいですが、ここでの生活も楽しいです」


 特にクラウス様には、楽しませていただきました。

 お酒を飲んで豹変する様は笑えましたし、心細さが半減しました。これは、クラウス様には秘密ですがね。


 あれがなければ、クラウス様に親近感を覚えなかったかもしれません。本音ダダ漏れだと、嘘をつけないですから、信用できるんですよ。悪い人じゃないとすぐにわかりましたし。

 義両親や他の方々もいい人ばかりですしね。


「クラウス様は、どんな子供時代を過ごしたんですか?」

「私か?そうだな……一人っ子で兄弟姉妹はいないが、領民が家族みたいなもので、淋しくはなかったな。

 同じ年頃の奴らとは、馬鹿みたいなことをして遊んだりしてた。友人たちの中には、王都へ働きに出る奴や隣国へ行く奴なんかもいる。

 あいつらは、元気にしてるだろうかと懐かしく思う時もある」


 出会いと別れというやつですね。せつない気持ちになりますが、それぞれの人生が交わったり、別れたりするのは、仕方がないことです。

 そう思うと、私とクラウス様が出会ったのも特別な感じがしますね。


「クラウス様」

「ん?」

「私は、クラウス様が夫でよかったと思っていますよ」


 下手をすれば、暴力や浮気をする夫だったり、夫家族に虐げられたり、老人の後妻にならなければいけなかったり。

 それに比べれば……って、比較対象が酷すぎますかね?


「……暑いですか?」


 クラウス様の頬がほんのり赤くなっています。涼しいくらいだと思っていたのですが、大丈夫でしょうか?


「え?あ……い、いや。なんでもない」

「水筒に水を入れてきたので、飲みますか?」

「あ、ああ」


 頷いているので、コップに水を注いで渡すと、彼は一気に飲み干しました。

 そんなに喉が渇いていたのでしょうか?

 もう1杯飲みますか?

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