27.お馬さんが通る
湖へ行くには、馬に乗るしかありません。馬車では通れない細い道があるからです。
ドワイアン家には、レンガと木材でできた厩舎があり、たくさんのお馬さんを所有しています。放牧場で、お馬さんたちが優雅に走っているのが見えます。
「こいつが愛馬のアレックスだ」
雲ひとつ無い晴天の下で、太陽の光を浴びた真っ黒な毛並みのお馬さんは、威風堂々と私を見下ろしています。
お前、新入りか?と声が聞こえてきそうですね。
新入りです、よろしくお願いします。
「とても立派で、きれいな毛並みですね。脚もしっかりしています」
「ああ、なにがあってもビクともしない強いやつだ。こいつには、何度も助けられた」
クラウス様がアレックスの首を撫でると、甘えるように顔を寄せています。仲良しですね。
「レティシアは、馬に乗れるんだな?」
「はい」
「なら、こいつを紹介しよう」
馬丁が連れてきてくれたのは、アレックスより一回り小さな栗毛のお馬さんです。目がクリッとしていて、首がスラっと長い美人さんです。
「レティシアの馬だ。ティアという」
「……私の馬ですか?」
「ああ。穏やかな気性だから乗りやすいと思う。気に入ってくれるといいんだが」
なんてことでしょう。お馬さんをもらいました。贈り物で釣ろうったってそうはいきませんよ!
でも、嬉しいので感謝します。
「ありがとうございます! 挨拶してもいいですか?」
「ああ」
ティアにゆっくりと近づきます。
「ティア」
できるだけ優しい声をかけながら、手の甲を差し出すと、ティアは匂いを嗅いできます。うう、可愛い。手の甲で鼻を触ると、頭を下げてくれました。
落ち着いているようなので、首を撫でます。彼女は、大人しく撫でさせてくれました。
「気に入られたようだな」
「クラウス様、ありがとうございます」
顔がニヤケていないか心配ですが、仕方ありません。
とても幸せなんです。
実家でも馬に乗っていましたが、専用ではありませんでした。
どんな馬でも乗りこなしなさい! というお実母様のありがたいお言葉により、順繰りで色々なお馬さんに乗ったものです。
その代わり、どんな気性の荒いお馬さんでも乗りこなす自信があります。
「そろそろ、出発するか?」
「はい」
鐙に足をかけ、鞍にまたがります。馬上からの景色は、また格別です。
菜の花畑にいたら、保護色で存在が消えてしまうような黄色のワンピースを着ている私は、スカートがめくれないように気をつけなければなりません。
お義母様が選んでくれた可愛いワンピースです。
胸元に白いリボンが付いていて、裾にはレースがあしらわれています。
クラウス様も颯爽とアレックスに乗りました。真っ白なシャツとダークブラウンのスラックスという慎ましやかな服装。いつもの軍服より、爽やかな感じでお似合いですね。
さて、お馬さんに乗り、湖に向かって出発です。とても楽しみです。