24.優しい人たち
「ルルナの猫を捜してあげたらしいな」
ある日の夜、部屋にやってきたクラウス様は、お酒を飲みながらそう言いました。
「誰かから聞いたのですか?」
「ああ。部下のハミルトンが、ルルナから聞いて教えてくれたんだ」
ハミルトン様といえば、銀髪の槍使いですね。ルルナちゃんと仲良しなのでしょうか?
「そうでしたか。無事に捕まえられてよかったです。
ルルナちゃんのところに連れて行ったら、とても喜んでくれました」
恋の季節が終わり、元々人懐っこい性格なのか、ラウラちゃんは、案外簡単に捕まえられました。
孤児院に連れて行くと、大歓迎を受けました。
子供たちと久しぶりに走り回って遊べたので、楽しかったです。いい運動になりましたね。
院長先生も優しくて、おいしい紅茶をご馳走になりましたよ。
「あの子は、ヤーナの妹なんだ」
「ルルナちゃんを送っていった時にヤーナさんにも会ったので、知っています」
「そうか」
クラウス様は、いつもよりゆっくりとお酒をちょびちょび飲んでいます。
眠ってしまう自覚があるのか、最近は湯浴みと着替えも済ませてやって来ます。
ソファーに向かい合わせで座りながらのこの時間が、当たり前のようになっていますね。
「ご両親のことも少し聞きました。姉妹2人で、大変だったでしょうね」
「……そうだな。特にヤーナは助け出された後、ひどくオドオドしていた。妹のためにしっかりしようと気を張っているうちに、気が強くなったな」
妹を守るために強くなるしかなかったのでしょう。
今は、ルルナちゃんがまだ小さいので、孤児院でお世話になっているそうです。姉妹で一緒に暮らすことがヤーナさんの目標だと院長先生に教えてもらいました。
「辺境伯軍に入ると聞いた時、驚いたよ。だが、ヤーナの努力は皆も認めている」
「そうですね。短剣で戦う姿もかっこよかったです」
彼女の戦いっぷりを見れば、辺境伯軍に入るためにすごく頑張ったことがわかります。
ルルナちゃんのため、そして、きっとクラウス様に認められたい、支えになりたいと思ったんじゃないですかね。
クラウス様のグラスが空になったので、お酒をつぎます。
「皆から、君の話をよくされるんだ」
「私のですか?」
不思議に思い首を傾げると、クラウス様は柔らかく微笑みました。
「おじいさんの長話に付き合ってくれたとか、迷子の母親を一緒にさがしていたとか。
それに、偏屈で有名な婆さんに、奥さんは元気かと聞かれて、意外で、びっくりした。君は、本当にみんなと馴染んでいるな」
長話のおじいさんは、多分、八百屋のおじいさんでしょう。昔のドワイアン辺境伯領について話してくれるので、勉強になります。
お実母様から、困っている人を見かけたら助けなさいと言われているので、迷子を助けるのは普通です。
偏屈で有名なお婆さんは、確かに癖のある人ですが、悪い人ではありません。元気にしているのかと気遣ってくれるのは、嬉しいです。
「皆さん、温かくて、いい方ばかりですよね」
助けてばかりではなく、私も助けられています。
フィナさんは言わずもがなですし、若い女の子たちは、最近の流行りの店を教えてくれたり、屋台のおじさんはおまけをくれたりします。
辺境の地で暮らしていると、協力し合うのが自然と身についてくるのか、優しい人が多いのです。