20.猫ちゃんの捜索
「まずは、猫ちゃんの好物を買いに行きましょう」
「好物?」
大人しく手を引かれているルルナちゃん。こんな妹が欲しかったですね。
「はい。好きな物でおびき寄せるのです。むやみに捜しても見つからないんですよ」
「うん」
お肉屋フィナさんのところへ行くことにしました。猫ちゃんは、魚も好きですが、実はお肉も好きなのです。
「こんにちは」
「いらっしゃい! あら、レティシア様。こんにちは」
フィナさんはいつものように笑顔で迎えてくれました。
事情を説明すると、茹でた鳥のササミをたくさんくれました。
「レティシア様は、優しいですね」
優しいのは、フィナさんですよ。猫ちゃんにあげるだけにしてはササミの量が異常です。ちょっと重いですが、モニカがほとんど持ってくれました。全部は申し訳ないので、多少は私も持ちますよ。
「猫ちゃんが、よく集まる場所などわかりますか?」
「うーん、そうねぇ」
空き地や公園、教会の裏など何ヶ所が教えてもらえました。なかなか有力な手がかりです。
私では詳しい場所がわからないので、案内はモニカに任せることにしました。
町の地理もちゃんと覚えなければなりませんね。もっと散歩をするようにしましょう。
まずは、教えてもらった小さな公園に向かい、ササミを設置します。しばらく離れて待っていると猫ちゃんたちが集まってきました。
もふもふ可愛い猫ちゃんたちが、我先にとササミにかぶりついています。撫で撫でしたいです。
「あの中にラウラちゃんはいますか?」
「ううん。白い猫ちゃんはいるけど、ラウラじゃない」
「そうですか」
残念ながら、ここにはいないようですね。しかし、まだ諦めるのは早いです。他の場所でも同じことをしてみましょう。
「あ!!」
三度目の正直といいますか、集まってきた猫ちゃんを見て、ルルナちゃんが声をあげました。
真っ白な猫、尻尾の先が黒いのも彼女の話と一致しますね。とても美人な猫ちゃんです。
鐘の音が聞こえるここは、教会の裏手にある小さな空き地です。ササミを食べた猫ちゃんたちは、日向ぼっこをしていますね。
気持ち良さそうです。
目的のラウラちゃんはたくさんの猫ちゃんを侍らしていて、モテモテです。
その中でひときわ身体の大きい黒猫ちゃんが、ラウラちゃんに擦り寄りはじめました。
嫌な予感がします。
黒猫ちゃんは、クンクンとラウラちゃんの匂いを嗅いでいたかと思うと、後ろから覆いかぶさりました。
おっと、まずいですね。
ここは、神聖な教会の近くですよ。
慌ててルルナちゃんの目を手で覆います。
「お姉ちゃん……?」
「しばらくお待ちください」
それしか言えません。
なるほど、ラウラちゃん……食欲がなくて、夜は苦しそうで、なおかついきなり外に飛び出しちゃったのは、発情期だったんですね。
小さなお子様に見せる光景ではありません。
昔、お実母様から聞いたことがあります。
メス猫ちゃんは、恋の季節になると落ち着かなくなり、相手を見つけるために脱走することがあるのです。
どうやって説明するか悩みますね。
しばらく待っていると、終わったようなのでルルナちゃんを解放します。
「ラウラ!!」
ルルナちゃんは、ラウラちゃんに向かって飛び出して行きました。しかし、驚いた猫ちゃんたちは、一目散に逃げ出してしまいます。
ラウラちゃんが逃げたことに、ショックを受けたルルナちゃんは泣きだしました。
「ルルナちゃん」
彼女に近づいて、そっと抱きしめます。なんて柔らかくて温かい。頭をなでなでしますが、泣き止みそうにありません。
「ラウラぁ、うぇーん」
今は興奮状態ですから、捕まえるのは難しいでしょう。
捕まえてもまた逃げる可能性もあります。
恋の季節が終われば、戻ってくると聞いたことがあるので、待つべきでしょうか。
「ルルナちゃん。ラウラちゃんは、今……えっと、運命の王子様を探しているのです」
「……ひっく、王子様……?」
反応がありましたね。やっぱり多感な時期の女の子、王子様への憧れがあるようです。
「そうです。すてきな王子様を探している最中なので、今は帰ってこないだけです。ですから、しばらく待ってあげてくれませんか?」
「ラウラは、幸せになる?」
それはどうでしょうか。
しかし、ここで否定しては幼心に傷をつけてしまいます。
「ええ、きっと王子様を見つけて、幸せになるでしょう」
「もう、ルルナのこと嫌いになっちゃったのかな?」
「それは違います。今は王子様のことで、頭がいっぱいなだけです。落ち着いたら、ルルナちゃんのところに戻ってきますよ」
「……うん。ラウラが帰ってくるの待ってる」
いい子ですね。はあ、柔らかな髪の毛が気持ちいいですね。もしゃもしゃしたくなります。
とりあえず、定期的に猫ちゃんの様子を見にきましょう。落ち着いたら、捕まえて、ルルナちゃんのところに連れて行くのです。