19.少女との出会い
薄っすらと雲が空をおおっていますが、涼しくて過ごしやすいです。今日はモニカと一緒に町に出てきています。
特に用事があるというわけではないですが、時間が空いたのでブラブラ散歩がてら、町を見物しにきました。
私の存在も認知されつつあり、たまに領民に声をかけられます。
そんな時は、きちんと笑顔で挨拶をしますよ。
挨拶は人間関係の基本ですからね。
ドワイアン辺境伯領には、珍しいものがたくさんあります。隣国の文化を取り入れているため、見たこともないお菓子や雑貨、装飾品など、眺めているだけでも楽しいのです。
実家の男爵領には、こんなにたくさん店はありません。食料と服が一緒に売っているような店やお酒を飲みながら会計をしているおじさん。眠りながら店番をしているおばあさんなどもいました。それはそれで楽しいんですけどね。
「レティシア様、どこまで行くつもりですか?」
「へ?」
モニカに声をかけられ、ハッとなりました。
辺りを見渡すと、路地裏に入っていたようです。考えごとをしていたので気がつかなかったですね。失敗失敗。
「ここは?」
「表通りから外れています。あちらから戻れますよ」
そこまで変な道に入ったわけではないので、良かったです。
踵を返して戻ろうとすると、鼻をすする音が聞こえました。目を凝らして見ると、道の端に小さな女の子が膝を抱えて座っています。
「どうしました?」
怯えさせないように、女の子の前に屈み声をかけると、少女が顔を上げました。かなりの量の涙と鼻水を流しています。
最近多いですね。
ハンカチをそっと渡すと、彼女は受け取り涙を拭きました。
これで、ひと安心です。
「あ、ありがとう。お姉ちゃん」
お姉ちゃん。いいですね。私は末っ子なのでお姉ちゃんと呼ばれるのは、新鮮です。
「迷子ですか?」
少女の二つくくりにしたちょこんと短く出た髪が、首を横に振るのと同時にフルフルと動きます。
人形のように可愛らしい女の子ですが、10歳にもなっていないくらいですかね。
「ラウラがいなくなっちゃったの」
「ラウラ?」
「孤児院で一緒に暮らしてたお友達。最近ずっと食欲がなくて、夜も苦しそうだったの。今日、いきなり外に飛び出しちゃって……心配でさがしてるんだけど、見つからないの」
ふむ。孤児院の子でしたか。いきなり外に飛び出すとは穏やかではないですね。なにかあったのでしょうか?
「あなたのお名前は?」
「ルルナ」
「ルルナちゃんは、ラウラちゃんと仲良しなのね?」
「うん」
「ラウラちゃんはどんな子なの?」
ルルナちゃんは、うーんと考え込んだ後、目を輝かせて説明をしてくれます。
「真っ白で、目がクリクリしてて可愛いの。目はきれいな青色なのよ。それから、耳が少したれてて、尻尾は長くて先っぽだけ黒いの」
耳がたれて、尻尾があると?
「ラウラちゃんは……動物ですか?」
「猫ちゃんよ」
なるほど、猫ちゃんでしたか。人が行方不明になったわけではないようです。
人でないからよかったというのは、人間の傲慢な考えです。いけませんね。
ルルナちゃんはとても心配しているようなので、早く見つけてあげましょう。
「では、お姉ちゃんと一緒にラウラちゃんを捜しましょうか?」
「いいの?」
「はい」
手を差し出すと、ルルナちゃんはきゅっと、つないでくれました。小さな手がとても温かいです。
領民の悩みを解決するのも大切なことですから、猫ちゃん捜しを頑張ってみましょう。