18.気持ちの整理
「お疲れさまでした」
「お疲れさま」
お酒の入ったグラスをクラウス様に渡します。
職場訪問から帰ってきた私は、いつものように部屋にやってきたクラウス様と過ごしています。
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「部下が失礼なことを言ってすまなかったな」
「失礼なこと……ああ、ヤーナさんですか?」
首を傾げるとクラウス様がうなずきました。
「悪いやつじゃないんだが、融通がきかないところがあるんだ」
「いい人ですよね、愛を感じます」
「愛?」
あら、眉根を寄せて変な顔になっていますよ。なに言ってんだこいつって感じですね。
「ちゃんと意見してくれるのは、ありがたいことです。
お菓子作りくらいは大目に見てほしいですが、ヤーナさんの言っていたことは正しいですよ。
厳しい意見は、自分を成長させます。優しいだけが愛じゃないのです」
「優しいだけが愛じゃないか……」
しみじみといった様子で一杯目を飲み干したクラウス様のグラスにお酒をつぎます。
「男爵領では、皆が武器を扱えるのか?」
「まさか、全員ではないです。苦手な人もいますからね」
「魔物を討伐したことは?」
「何度か経験しました。もちろん一人ではないですよ。
罠をはったり、追い込んだり、できるだけ危険を排除して討伐します」
「……すごいな」
実家では、兄のズボンの裾を切って履き、馬に乗って駆け回っていました。懐かしい思い出です。みんな元気にしているでしょうか。そろそろ手紙を書きましょうかね。
「レティシア」
「はい?」
「君には、感謝している……」
何についてかよくわからないので、黙って続きを聞きましょう。
「父や母とも仲良くしてくれているし、次期辺境伯夫人として努力してくれているのもわかっている」
気にしてくれていたんですね。努力が認められるのは素直に嬉しいです。
「両親も君をすごく気に入っている。
部下の失礼なもの言いにも、毅然とした態度で冷静に対処していた。……クッキーもうまかったしな。
まさか、弓の腕前があれほどとは……本当に驚いた。
最初は変わった女性だと思ったが、君がいつも笑顔で見送りと出迎えをしてくれるのが……嬉しいと感じるんだ」
変わった女性だとは、失礼ですね。普通ですよ。とっても普通の可愛い女の子です!
それはともかく、私の優しさが伝わっていたようです。
やはりお実母様のしていたことに間違いはないようです。
「これだけ穏やかな気持ちになれるなんて……思わなかった……な」
クラウス様は、すでに2杯目を飲み干していたようです。背もたれに身体を預けて眠っている彼から、グラスを受け取ります。
「いつから、酔っ払ってたんでしょうね?」
ツンツンとほっぺたを突いてやります。思っていた以上に弾力がありますね。
とても気持ちがよさそうにスヤスヤと眠っています。
今日は、王女殿下の話をしませんでした。
気持ちの整理は、つきましたか?
あなたは、愛されています。両親からも領民からも。
失恋の一つや二つくらいで、負けないでくださいね。
「さあ、よく眠ってください。明日からは、新しい人生が始まる……かもしれません。がんばってくださいね」