14.危険?
砦には機密がいっぱい。
どこでも案内してもらえるというわけではありませんよね。
当たり前です。
砦の中にある訓練場は、一般の人でも希望すれば見学できるそうで、たまに軍人さんの家族なんかがやってくるみたいです。
青空の下、大きな広場では、皆さんが声高に叫びながら剣で打ち合っているのが見えます。
飛び散る汗、筋肉の躍動感、熱気がムンムンしていますね。
訓練用人形に向かって、攻撃の練習している人、的に向かって弓を引いている人、休憩中の方もいますね。
「ほら、あそこにクラウスがいるよ」
お義父様が指差した方に視線を向けると、金属音が響き渡りました。
クラウス様と打ち合っていた相手の剣が、宙を舞っています。
危ないですね。
「お前ら、そんなものか! 次、早くしろ!!」
「はい!」
酔っ払っている時とは、別人のようにキリッとした表情です。
いつもより5割増しです。
うーん、殿方の真剣な表情、好きなんですよね。ドキドキします。
次の相手は男女二人組のようです。
長い髪を一つくくりにした女性が、短剣をクラウス様に投げつけました。
しかし、あっさりと剣ではたき落とされます。その間に距離を縮めた眼鏡をかけた細身の男性が、槍を使ってクラウス様に攻撃をしかけました。
その攻撃もクラウス様は、難なくよけてしまいました。
女性の接近を許したものの、クラウス様は二人を相手にしても動じません。
決着はあっさりと着きました。
クラウス様の剣が、二人の武器を弾き飛ばしたのです。
「クラウスは、強いだろう?」
まるで自分のことのように、得意満面のお義父様。自慢の息子さんなんですね。
「ちなみに、辺境伯軍の将軍は私だよ」
「はい」
自分で将軍と名乗りましたね。自分のことも自慢なんですね。
「ただ、私は辺境伯として領地経営もしなければならないから、軍の実務はほとんど副将軍がやっているんだ。
今頃彼は、執務室で書類と格闘しているだろうね」
……案内役をしている場合ですか?副将軍さんが気の毒ですよ。
「クラウスは、部隊を率いる隊長をしているんだ」
辺境伯軍の構成はよくわかりませんが、お義父様が1番偉くて、クラウス様はそこそこ偉いってことですかね。
見学していると、クラウス様が私たちに気がついたようで、近づいてきました。
「すまない。もう少しで訓練も終わるから、そのあと私が案内しよう」
「お気遣いなく。お義父様が案内してくださってますので」
クラウス様が目を細めています。私、変なことをいいましたか?
「隊長」
後ろから声かけてきたのは、先ほどクラウス様と戦っていたお二人です。
「そちらの方は……?」
槍の人に気付かれました。
「妻のレティシアだ」
妻と紹介してくれるんですね。そういう紹介のされ方は初めてなので、少し緊張します。
「初めまして、レティシア・ドワイアンといいます。よろしくお願いします」
やはり初対面での笑顔は大事です。旦那様の仕事仲間に嫌われてはいけないので、愛想をよくしなければ。
「副隊長をしているハミルトン・ギュンターです。へぇ、可愛らしい奥様ですね、隊長」
可愛らしいだなんて、見る目がありますね。銀色の髪をかきあげた彼は、ちょっと浮ついた感じがします。
短剣使いの女性も名乗ってくれます。
「ヤーナといいます」
こちらは、あまり愛想のない方ですが、軍服の上からでもわかる、胸の豊かさがうらやましいぞ。
ハミルトン様は、家名を名乗っているので貴族。ヤーナさんは、平民のようですね。
えっと、ヤーナさんにものすごく睨みつけられている気がするのですが……私、危険な感じですか?