13.ドワイアン砦
ドワイアン辺境伯家に嫁いで一ヶ月が経ち、それなりに充実した日々を送っています。
お義母様から辺境伯夫人として必要なことを学んだり、お義父様とカードゲームで遊んだり、夜は酔っ払ったクラウス様のお相手をしたりですね。
お義父様とのカードゲームは、毎回白熱します。
私も兄弟姉妹たちとそこそこやりあってきましたが、お義父様は本当に強いんです。
イカサマを疑っているのですが、今のところそれを見ぬけません。悔しい。
クラウス様に対しては、優しさを表すために、毎日お見送りとお出迎えを笑顔で続けています。
良い子ですね、私。
ちなみに初夜以降、クラウス様と肌を重ねていません。
そんな雰囲気にならないというのもありますが、別の女性が心の中にいるのに、抱かせるのは酷ですよね。
きっと罪悪感を覚えてしまいます。
痛かったから嫌だなって思ってるわけじゃないです。本当です。
酔っ払ったクラウス様から、アンジェリカ王女殿下との思い出話を聞いて、わかったことがあります。
彼女は、クラウス様をかなりいいように使っていたということです。
思い出話のほとんどが、彼女におねだりをされて、あれを買いに、これを探しにどこどこまで行った。
最終的に、笑顔でお礼を言われて嬉しかったで締めくくられるんです。
うーん、王女様は結構したたかですよね。お会いしたことはないですが。
少しわがままなところが可愛いと言っていましたが、聞いているとかなりわがままな人です。
世の中には、頼られることに喜びを感じる人がいるとお実母様が言っていたので、きっとクラウス様はそういう趣向の人なのでしょう。
王女殿下は、私より一つ歳上で、18歳になるのと同時にクラウス様と婚姻する予定だったのですが……。
クラウス様と婚約を破棄したあと、新しい婚約者は見つかったんでしょうか?
聞いたことがないですね。
変化があったことといえば、クラウス様の思い出話の仕方でしょうか。最初は嘆きながら話していたのに、最近は懐かしむように話しています。
失恋の痛手が癒えてきたもよう。
これで、未亡人への道は閉ざされたわけです。
よかったよかった。うん、よかったですよ。
面倒くさいなと思うのは、彼自身、酔った時の記憶がないので何度も同じ話をされることでしょうか。
前にも聞きましたよとげんなりします。
それ以外は、おおむね平和です。
さて、今日はお義父様に誘われて、国境沿いの砦にやってきました。いわゆる旦那様の職場訪問ですね。
ドワイアン辺境伯軍のお仕事は、国境を守ることです。許可なく国境を越えようとした者を懲らしめるわけですね!
自国を守るための大切な砦です。
ドワイアン砦は、石造りのとても大きな要塞です。ものものしい雰囲気で、軍人さんたちが訓練している声や音が響いています。
ちょっと興奮しますね。
筋肉隆々の殿方たちが、本気で打ち合う姿……すてきです。
「レティシア様、足元にお気をつけください」
「ありがとう、モニカ」
モニカが日傘をさしてくれています。少し日差しが強いからありがたいですね。
本日は、お義母様が選んでくれたラベンダー色のワンピースを着てます。上品な若奥様風で、清楚さがでてますよ。
殿方の視線を釘付けですね!
「さあ、レティシアちゃん。わがドワイアン砦を案内してあげよう!」
お義父様、やる気まんまんですね。軍服姿も渋くてお似合いです。
「ありがとうございます」
職場訪問開始です。