12.初恋
「彼女に初めて会ったのは……私が10歳の時だ。
離れて暮らしていたから、毎年どんどん綺麗になっていく彼女とたまに会えるのがとても楽しみだった……」
目を真っ赤にしながら語るクラウス様。完全に酔っ払ったようですが、昨日より大人しく話していますね。
「初めて薔薇の花束を贈った時に……とても可愛い笑顔を見せてくれたんだ。私は、この笑顔を守るためなら……う、うぅ」
ああ、泣き出しちゃいました。すかさずハンカチを渡します。
昨日は、鼻水をつけられそうで怖かったので、ちゃんと用意しておいて良かったです。
「私は、一体なにをしていたんだろうな……」
ハンカチを握りしめて、遠い目をするクラウス様。アンジェリカ王女殿下を想って黄昏ているのですね。
気持ちは大変よくわかりませんが、悲しんでいることはわかります。
「もっと言葉にしていれば、なにか変わっていたのだろうか……」
完全に一人の世界に入っちゃってますね。
ここまで一途なのは、すばらしいことだと思いますよ。
でも、言葉にすることは大切です。それを怠れば今回のようになるのです。
勉強になりましたね。
「クラウス様、一つ聞いてもいいですか?」
「……なんだ?」
目がすわっています。
そろそろ眠るかもしれませんが、これだけは確認しておかなければなりません。
「ドワイアン辺境伯の軍勢は、どれくらいの規模で、武器はどの程度のものを所有しているのですか?」
「そんな……機密事項は……話せない」
最後の言葉を残して、クラウス様はソファーに倒れ込みました。
グラスを落とす前に受け止めます。
ふう、よかったです。
一応、軍事機密を暴露しない理性は働くようですね。理性ではなく、無意識かもしれませんが。
もし話してしまうようなことがあれば、さすがに私一人でこの秘密を抱えておくわけにはいきません。
お義父様への報告は必須です。
もしかしたら、友人さんもその辺りは確認したかもしれませんね。なんでもかんでも喋るわけではなくてホッとしました。
10歳で出会って恋をした。きっと初恋なのでしょう。甘酸っぱいです、初恋。
私にも経験があります。お相手は庭師のブルースでした。
植木を動物の形に刈り込む彼の技術はすばらしく、ひと目見て惚れ込んだんです。
御歳60歳のベテラン庭師さんです。かっこよかったなぁ。
それは技術に惚れただけじゃないかって?
それも一つの愛の形だと思います。
身分と年齢差と奥様がいらっしゃったので、泣く泣く諦めましたが……失恋は悲しいものです、はい。
さてと、眠ってしまったのなら、人を呼んで部屋に運んでもらいましょう。
邪魔ですからね。