11.優しくしよう
「お帰りなさいませ、クラウス様」
驚いていますね。
それはそうでしょう。お帰りになるのを玄関で待ち構えていたんですから。
笑顔でお出迎えをして労うのです。私の優しさです。
お実母様が毎日やっていたことなので、間違いありません。
「仕事、お疲れさまでした」
「あ、ああ。ありがとう……」
戸惑っていますが、嫌がってはいないようです。多分。
「クラウス様、食事の用意ができております」
「わかった」
クラウス様に声をかけたのは、家令のセレスタンです。30代半ばくらいの男性で、身体も細いが目も細いです。いつも無表情なので、無表情が通常なのでしょう。
私の役目は終わりました。さっさと部屋に戻ります。
自室でのんびり本を読んでいると、今日もクラウス様がやってきました。
なぜやってくるのでしょうか?
ですが優しくすると決めた以上、ちゃんと対応はしますよ。
「今日もお酒を飲みますか?」
「ああ」
いいみたいです。本当にお酒を飲んだ時の記憶がないんですね。
準備を済ませて、今日もグラスをクラウス様にお渡しします。
「クラウス様は、外でお酒を飲まれるんですか?」
「……いや」
それは良かったですね。あのダダ漏れを外で披露していたら恥ずかしくて町を歩けませんよ。
「成人した時、友人と酒を飲んだが、すぐに眠ってしまってな……その友人が絶対に外で酒を飲むなと言ったんだ。
私は軍人だ。酒で前後不覚になるのは良くない。
友人の言い分はもっともだったから、飲むときは寝る前に、一人で一杯飲むくらいだ」
ほうほう、友人さんが優しい人で良かったですね。一体なにを暴露してしまったのでしょうか。
「君は……怒っていないのか?」
「なにがです?」
クラウス様は目を泳がせて、とても言いづらそうにしています。
「最初に、私が言ったことだ」
愛さないと言った件でしたか。口に出した言葉は取り消せないんですよ。
「怒ってませんよ。家族としては、尊重してくれるんですよね?それなら構いません」
「そ、そうか」
愛がないのはお互い様ですから、私に怒る権利はないです。さすがに、フラれたばかりで傷心しているクラウス様に鞭を打つようなマネはしませんよ。
「さあさあ、もう一杯」
「すまない」
1杯目は、特に変化はないようです。昨日も2杯目を飲み干した後から豹変したので、その辺りが境目でしょうか。
「今朝、起きたら妙にスッキリしていたんだ」
「そうですか」
胸の奥に溜め込んでいたものを吐き出したから、無意識にスッキリした気分になったんですかね?
良かったじゃないですか。
「酒もいいものだな」
安心しきった顔をしていますが、あなたにとっては爆弾のようなものですよ。
気をつけてください。
読者様方、ここまで読んでくださりありがとうございます。
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