10.自分、不器用なんです
その後、お義母様に連れられて、領民たちからクラウス様がどんな人か聞きました。
真面目、優しい、仕事ができる、強いなど、概ね好意的な意見が大半でしたね。
たまに美形すぎてムカつくという、どう考えても妬みにしか思えない意見もありましたが……それはおいておきましょう。
結果、クラウス様は憐れだということが判明しました。
一度失った信頼を取り戻すのは難しいですからね。結局クラウス様は王女殿下の信頼を取り戻せなかったというわけです。
うーん、かわいそうですね。
これからは少しくらい優しくしてあげてもいいかもしれません。
失恋の痛手を引きずっていますからね。自暴自棄になられても困ります。
いきなり未亡人とか嫌ですよ私。
それはそれで楽かもなんて、ちっとも全然思ってません。
「もともと王家と辺境伯家を結びつけるための縁談だったの。
ドワイアン辺境伯家は国境を守るために大きな軍事力を持っているから、国の安全のためってことでね。
けれど、クラウスはこちらでの生活もあるし、頻繁に王都に行くことはできないでしょう?
王女殿下と仲が悪いというわけではなかったけれど、仲良しというわけでもなかったのよ」
仲良しではない?あれだけベタ惚れなのにですか?
「クラウス様は、王女殿下のことが好きなのでは?」
「……さあ、どうかしら?婚約者として最低限のやり取りはしていたようだけど。
婚約破棄の話をした時も、わかったって一言だけだったわよ」
クラウス様、伝わってないです。気持ちが全然伝わってないです。信頼を取り戻す前に、信頼関係を築けていません!
そこそこ長い期間、婚約者だったはずなのに、何をやっていたんですか。
不器用にもほどがあります。
「あなたたちは、政略結婚だけど気が合うと思うの。
愛はこれから育めばいいわ。
ゆっくりじっくり育んだ愛は、きっとなによりも強いものになるでしょう」
お義母様、乙女ですね。手を合わせてうっとりとしています。
なにをどう考えて気が合うと言っているのか不明です。
育むもなにも、そもそも愛のひとかけらもない状態でどうしろというのでしょう。
開口一番、君を愛することはないと言われたんです。
断言ですよ、断言。
とはいえ、やはり気の毒ですよね。自業自得とはいえ、愛する人に信じてもらえなかったのは、悲しいことでしょう。
ああ、かわいそうなクラウス様。
未亡人にならないように優しくしよう、そうしよう。