002:荒れた大地
その日はよく晴れた日で、いつもなら必ずどこかしらで小競り合いがあったり、時には大規模戦闘があったりで、こんなにのんびりとはしていられないはずだった。
「これから、どうする…?」
「どうすっかなぁ…」
途方に暮れたように呟かれた溜め息混じりの問掛けに、同じく途方に暮れたような溜め息混じりの答えが返る。
「戦が終わっても、これじゃあな…」
夕焼けに染まった赤い大地には沢山の細長い影が延びていた。
今日もまた幾つか増え、けれどこれからはもうきっと増えることのない、それらの木切れ、或いは積み重ねられた小石、或いは使い古された剣――共に戦った仲間たちの墓標を背に、ただ静かに沈みゆく太陽を見つめていた。
この日、本国から届いた一枚の紙切れ。それは長年続いていた戦争の終りを告げるものだった。
少なくとも一人の人間が生まれ、育ち、子を生し、その子が育つのを見届け、平均よりはいささか短いと言わざるを得ない一生を閉じてもまだ終わらないくらいには長く続いたその戦争も、終りばかりは実にあっけないものだった。
国同士の間でどんなやり取りがあったのかなど、末端の兵士には知る由もない。最も戦闘が激しかった最前線にもたらされたのは、労いの言葉でも褒賞でもなく、ただ最早戦う理由が無くなったという事実だけ。戦争が始まった時と同じように、終わった時もまたその理由が伝えられることはなかった。
戦禍の最中に産まれ、幼くして剣を手にした。戦場で育ち、そこでただ生きるためにだけ生き続けていた。二親など疾うに無く、帰るべき場所も無い。拾ってくれた傭兵隊もつい最近の大規模戦闘で隊長含めほとんどが戦死し、壊滅した。頼れるものなど何処にもいない。
「あと半月、停戦が早ければな……」
そうすれば、今頃隊の皆と一緒に終戦を喜べたのに。
手にあるのは幼い頃から身に付けた、効率重視の的確な人の殺し方。そして何本目になるかも分からない、たいして価値もない剣が数本――しかも、そのうちの幾つかは戦場で敵とも味方ともつかない見知らぬ誰かが手にしていたものだ。そして、お情けとばかりに与えられた本の少しの報奨金。
たったそれだけだ。
しかし、生きていくために必死で身につけたそれらも、平和とやらが訪れるらしいこれからの世の中には、まるで必要とされない代物でしかないという。
平和と言う名の未知の世界の訪れ。
生き残ったのだと言う自覚も薄いまま、血濡れ荒れ果てた大地を前に、俺たちは途方にくれるしかなかった。
多くの者にとって、その日は長い戦いの終わった祝福べき日であった。
だが、一部の者にとっては、未知の世界の始まりを告げる困惑をもたらした日であった。
次回更新12/5予定。