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009:竜の眠り

「本当に、良いの?」


少女が尋ねる。

いや、少女のような姿をしているが、彼女は実際には歳を経た老獪な魔女だ。

いつも、外観と中味のあまりの差に彼女への悪口雑言は絶えたことはなかったが、もう、それを傍で聞くこともなくなるのだ。


「構わない」


答えるのは1000の齢を重ねた竜。

少女が詠唱すれば、この氷室は結界が解かれる日まで半永久的に外界から閉ざされる。


そう、私はここで眠るのだ。

いつか、誰かが私を必要とするその日まで。

それが、王と交わした魔法使いの契約。

そして、私に課された最後の竜としての義務。

先の言葉は逃がす事も出来るのだと暗に仄めかしていたが、それでは契約違反となってしまう。

確かに彼女が今ここで逃がしてくれるなら、私はたやすく逃げ延びるだろう。

けれど、お前に会えなくなるのであれば、私にとっては幽閉も逃亡もどちらも大差ないのだと、そう告げたらこの魔女は嗤うだろうか。


ああ、もしも心残りがあるとするならば。

この深い空の青を映した瞳に、寂しそうな色を浮かべている少女のような魔女の事だけか。

次に目覚めた時、彼女を初めに目に出来れば、などと願うのは愚かな事だろう。

こう見えて、この小さな魔女は既にかなりの高齢だ。

外見は年をとらなかったが。

本当に幼かった頃から、私は彼女を知っている。

此度の戦は本当に長かった。

100年かかって、漸く終結した。

彼女にはこれから国の復旧と言う大仕事が待ち受けている。

だが、私はもう用済みなのだ。

戦にしか役に立たぬ身、平和な世には必要とされぬこの身を、恨めしく思うのは初めてかも知れぬ。


「グィウェルゼ?」


沈黙を破ったのは彼女だった。

それは、これから長い間呼ばれることはない私の真名。

彼女だけが呼ぶことが出来る。


もう、この声を聞くこともないのか。

永久の別れを胸に、言葉を紡ぐ。


「さようなら、マイン」


私だけが呼ぶことの出来る彼女の真名で送る。


少女の青い瞳から、静かに雫が零れ落ちた。


君も、別れを惜しんでくれるのか。

ならば、それで充分だ。

それだけで、私は永い眠りも越せるだろう。


「おやすみなさい、グィウェルゼ」


氷室の扉が閉められる。

訪れるのは、真の闇だ。

まもなく、扉も雪で覆い隠されることだろう。


ああ、冷気が満ちてくる。

懐かしい、孤独だ。


別れのそれではなかった彼女の言葉に、叶わぬことと知りながら、それでも再会の時を夢想する。


せめて、夢の中ではあの青い瞳が共にあるように。



おやすみ、マイン。





サイトより加筆修正し、転載。

次回、11/27更新予定。

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