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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第十章 『生物と無生物のあいだ』
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7. 〝告発の行方〟

「告発の行方」(ジョナサン・カプラン監督 1988年のアメリカ映画)から

「は?何て?」

「『お話したいことがあります』って。そうしたら来てくださるって。二十分くらいで、って言われたのが萌ちゃんが来る前だから、後もう少しだと思う」

「マジ?何話すの?っつーか、田村はともかく、あの女刑事も来んの?」

「どうかな?最近はいつも一緒だから、いらっしゃるんじゃないかな」

「あたし、あいつ嫌い。お兄ちゃんの屋号を笑ったから」

「自分だって嫌がってるじゃない」

「あたしはいいんだよ。他の奴に言われたら気分悪い。って、それはともかく、深夜、ホントにあいつにあのこと言うの?」

「うん。やっぱ気になることが多い。記念式典だってもう明日だよ。でも結局、いまだ何も解決してないし。それにエミちゃんのことが気になる。エミちゃんのウイルスはすごく重要だって、砧さんも言ってたし」

「キモオタが悪党だからそういう悪だくみを思いつくだけじゃないの?」

「ううん、『誰でも思いつく』って言ってたよ」

「でも、直せるったってせいぜい半日前くらいまでじゃん?」

「時間の概念は今までなかったっていうから、わからないよ。手元においておけば何かと使えちゃうかもしれないし。むしろ、いない方がいい、って人が多いかもしれない」

「てか、そもそも、ウイルスのこと田村たちに言うわけにはいかないでしょ?」

「それはもちろんそうだけど。でも、それにね、ここのところのエミちゃんを見てると、何だか、あの事故の前の真昼を思い出すんだ」

「真昼を?」

「一緒に暮らしてても、違う場所にいるみたいな」

「深夜」

 萌が深夜の肩に手を伸ばし、触れる前に下ろす。

「それに、伝さんのことだって。伝さんが変な風に疑われるなんて絶対おかしい」

 深夜が声を荒げる。それから、無言で俯く萌に「どうしたの?」と訊いた。

「ねえ、深夜。お兄ちゃん、ほんとにこの事件に無関係かな?」

「な、何言ってるの萌ちゃん?伝さんだよ?あんなに優しくていい人を、よりにもよって妹の萌ちゃんが疑うなんて」

「わかってる。お兄ちゃんが素敵なのは誰よりも知ってる。でも、だからこそ」

 萌がこぶしを握り締める。

「真昼と深夜が事故に巻き込まれたとき、あたし、沖縄にいたでしょ?あの時、お兄ちゃんは連絡してくれなかった。モデルの仕事が好きだからとか、そういう妹が自慢とかじゃなくて、多分、あたしが何するかわからなかったからだと思う。実際、帰ってきて、真昼が死んで、深夜が危篤だって聞いたとき、あたしは暴れまくってたみたいだし。深夜には言ってなかったけど、あの時、あたしはお兄ちゃんを責めて、殴りかかった。後にも先にもお兄ちゃんに怒ったのはあの時だけ。お兄ちゃんはでも、何も言わず、黙ってるだけだった。もしかしたらお兄ちゃんは、あの事件について、あたしたちの知らない何か知ってんのかもしんない。それをあたしに言ったら、あたしが何しでかすかわかんない、くらいに思ってるのかも」

「萌ちゃん」

「でも、お兄ちゃんは真昼を弟だと、深夜も妹だって思ってる。悔しいのはきっとあたしたちと同じ。だったら、犯人への復讐を考えてもおかしくない」

「だ、だめだよ、復讐なんて。そんなこと、真昼だって望んでないよ」

「そんなのわかんないじゃん!あたしだって、真昼を殺して深夜をあんな目に合わせた奴が目の前にいたらずたずたに引き裂いてやりたいって今も思ってるし。たった一人のきょうだいをなくした深夜の前で言うのは厚かましいかもしれないけど」

「ううん、そんなことないよ。私こそごめんね」

「あたしはそうやって八つ当たりするしかないけど、事故の現場に最初に駆け付けたお兄ちゃんと、ついでにキモオタは、あたしたちよりもっとあの日の状況をよく知ってる。知っていればより動きやすいし」

「じゃあ、砧さんも関わってるの?」

「どうだろう。キモオタは自分の得になることしかしないから。ただ、真昼とは何だかんだで仲良かったし」

「真昼が一方的に砧さんを好きだったみたいだけどね」

「キモオタを好きなんて、男も女も含めて真昼くらいのもんだし」

「伝さんも仲いいよ」

「お兄ちゃんの場合は、何てのか、共生みたいな感じなんだと思う。キモオタはお兄ちゃんを利用できる。お兄ちゃんは、キモオタのずる賢さはよく知ってるし、あたしたちのこともあるから、便利なところもあるって」

「そうかな? じゃあ、浅麓園の子たちには大人気なのは?」

「ある意味精神年齢が同じなんだよ。ガキンチョ相手でもマジになるから。興味ないことには見向きもしないくらい大人げないけど、少しでも関心あること言うと、年齢差関係ないしだからね」

「でも、あの子たちにとってはそれが嬉しいんだよ。だって、ちっちゃい子からしたら巨人みたいな高校生に、対等な関係みたいに話してもらえるんだもんね」

「そもそもキモオタが定期的に浅麓園に行くこと自体不思議だけど。いくら最初真昼に誘われたからって、いまだお兄ちゃんと定期的に通ってる」

「何だかんだで萌ちゃんも砧さんを認めてるよね」

「あいつ、悪だくみは得意だからね。でも、これだけは言える。もしお兄ちゃんが決めたことなら、それがどんなことでもあたしはついて行く」

 それから深夜に向き直る。

「もちろん、深夜だって同じだよ」

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