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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第十章 『生物と無生物のあいだ』
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1. 〝シッピング・ニュース〟

「シッピング・ニュース」(ラッセ・ハルストレム監督 2001年のアメリカ映画)から

『た、助けて、デンさん』

 水しぶきを上げてもがく少年が叫ぶ。伝が駆け寄り、抱き上げる。

『マー君! 大丈夫?』

『真昼!』

『真昼? ってか、お兄ちゃん、真昼をお姫様抱っこ!?』

『マー君、泳ぎ得意なのに、どうしたの?』

『うう』

 真昼が伝の腕の中でぐったりとしている。

『真昼? 大丈夫?』

 深夜が真昼の顔を覗き込む。

『真昼! まっ、ってか、キモオタ! 何ビデオなんか撮ってんだよ?』

『いや、何か真昼に頼まれて』

『真昼?』

 深夜がもう一度真昼を見やる。薄目を開けてカメラを見ていた少年が慌てて目を閉じる。

『真昼! てか、あんた、薄目開けて!』

『うう、デンさん、息が苦しい。じ、人工呼吸を』

『ざけんな! ただの溺れた振りだろ! てか、キモオタ! カメラやめろ!』

『萌、砧君はせっかく海に来たのに、遊ぶのを後回しにしてみんなの想い出のために撮影係をかってくれてるんだ。そんな言い方失礼だろ』

『いや、デンさん。俺はただ、真昼から昼飯一回でどう、って言われただけっすけど』

『き、砧さん』

『ほら、お兄ちゃん! あの厚かましいキモオタが無償労働なんてするわけないじゃん!』

『黙ってればわからないことをあえて言って、みんなに気を遣わせないようにするのが砧君の奥ゆかしいところだよ。さすがは砧君だ』

『いや別に俺は』

『またお兄ちゃんはキモオタを買いかぶって!』

『デンさん、そんなことより早く人工呼吸してくれないと、俺』

『てか、真昼! 溺れたふりやめて早く降りろ!』

『そうよ真昼! 車で新潟まで連れて来てもらってるのに、更に迷惑かけるなんて』

『ちぇっ、ばれたか』

 真昼が伝に抱きかかえられたまま口をとがらせる。

『もう少しでデンさんが俺のファーストキスを奪う決定的な場面残せたのに、邪魔しやがって』

『させるかぁっ! つか、いつまでもお姫様抱っこされてんな! 離れろ!』

『しょーがないよ、デンさんは俺が一番かわいいんだし、ね?』

『ざけんな! お兄ちゃんはあたしが一番なんだよ!』

『そうよ、真昼! いい加減離れなさい!』

『キモオタもいつまでも撮ってんな!』

『真昼、もういいか?』

『ダメ、俺とデンさんのウエディングロードを余さず撮って』

『何がウエディングロードよ! バカなことばっかり覚えて!』

『うるせぇな、深夜は。中一で小姑かよ』

『ばっ!』

『あ、キモオタ先輩、俺の水着姿使ってもいいよ』

『うわっ、きもっ!』

 萌がカメラを睨む。

『キモオタ! あたしの水着姿を使うんじゃねえぞ!もちろん深夜のも』

『使うって、何に?』

『何って!』

 萌の顔が真っ赤になる。

『あ、かっ! な、何って』

『萌、俺が教えてやろうか?』

『萌ちゃん、ムキにならないで! 砧さんも保護者の前でそういうことは』

『そうそう。しょせん萌にとってデンさんは保護者。いい加減親離れして、デンさんを俺に譲れよ』

『絶対譲らない』

『何なら俺のことママって呼んでもいいぜ?』

『呼ぶかーっ!』

萌が叫び、再度砧に怒鳴った。

『キモオタもカメラ他に向けろ!』

『夏の浜辺でカメラを知らない人に向けてたらそれこそ犯罪者だろ?』

『あんたは存在そのものが犯罪者っぽいからぴったりじゃん!』

『萌! 砧君に失礼なことを言っちゃダメだ』

 カメラが下に向き、波間の魚を映し出した。

『って、キモオタ先輩! 言ってるそばからカメラ下に向けてんじゃん!』

『何か見たことのない魚がいたんで』

『ちょっとちゃんと撮ってよ!』 

『山の中育ちだと、海の魚は珍しいからな。真昼もエマもノノも見飽きてるし』

『ざけんな! あたしの水着姿より魚か! あんたは!』

『萌ちゃん、さっき撮られたくないって言ったのに』

『いいからキモオタ先輩、早くカメラ戻してよ! 俺、この動画でデンさんを脅して手籠めにするんだから』

 カメラが真昼たちに戻った。深夜が真昼に怒鳴っている姿が映る。

『真昼! 真昼も早く降りなさい! 伝さん、ほんとすみません』

『シンちゃんはあいかわらず大人だな』

『でもね、お義姉様ったら、ああ見えて二人きりになると俺のこといじめるの。俺のこと守ってくれる、伝?』

『ぎーっ!! お兄ちゃんを呼び捨てにすんな!』

『夫婦なら当たり前だろ?』

『真昼! いい加減に!』

『誰が夫婦だ!』

『伝。萌が反抗期なの。いつになったら俺をママと認めてくれるのかしら?』

『こ、殺す』

『キャーッ! 伝! 助けて! 継子に殺される!』

『真昼! 伝さん、もう真昼を甘やかさないで下さい。さっさと海に落としちゃってください』

『そこまではできないけど。でも、マー君、おろすよ』

『無理』

 真昼が伝に抱き着く。深夜が怒鳴り、萌が引きはがしにかかる。カメラがまた魚を映し始める。

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