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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第九章 『月の裏側』
76/135

1. 〝Ghost Guns〟

「Ghost Guns」(Fox11の特集)から

ゴーストガンは、シリアルナンバーもなく追跡ができないということで、銃社会のアメリカの新たな問題になっているようです。


 雪がまだ残る翌朝の雨月の校庭に、生徒たちが寒さに不平を言いながら集まって来た。整列する彼らの前に、教師も手をこすり合わせながら並ぶ。

「校長、校長の背後は私が守ります」

 にやついた安宅が壇上の一陽に声をかける。

「あ、あの、大丈夫ですから。もう少し離れていただいても」

「いえいえ、校長をお守りすることが教頭の役目ですし、ひいてはそれが当校を守ることになるのですから。それより、この演台、低すぎますね。校長の威厳を示すためにも、もう少し高くてもいいのでは?コートも長いし。あ、でも、合成皮革の安物ですね?一張羅なのに?」

 そう言って体をかがめる。一陽がコートの後ろを抑え、「ほっといて下さい!それにもうそろそろ時間ですから」と顔をしかめた。安宅は渋々体を起こして一歩下がる。そのやり取りを遠目に眺めていた萌が、深夜に耳打ちする。

「ハゲタカの奴、おばさんのスカートの中覗こうとしてない?キモ」

「萌ちゃん!いろいろと失礼だよ」

 深夜の叱責を司会の教師の声が遮った。一陽が一礼し、マイクに向かう。朝の挨拶に続き、体育館の水道管凍結による漏水のため、朝礼が急遽グラウンドに変更になった理由などに一通り触れた後、「ところで」と話題を変える。

「新入生の皆さんには唐突な感も拭えないと思いますが、今週末には、当校設立十五周年記念式典が予定されています。場所は周知の通りスコラ御代田の大ホールです。生徒会、ブラスバンド部の皆さんは、特に準備に余念がないものと思います。そして」

 一陽が言葉に詰まった。鼻の下を伸ばして自分を見上げている安宅を振り返り、左手で軽くコートを払う。

「それから、私事ですが、後輩にあたる新聞編集営業配達部の皆さんには、当日も取材をし、当校や御代田町のアピールに役立ってもらえたらと」

 銃声が響いた。生徒たちがしゃがみ込み、あちこちから悲鳴が上がる。同時に一陽の背後からひときわ大きな叫び声が聴こえた。

「きょ、教頭先生?」

 一陽が振り返る。安宅が地面に倒れて喚いている。

「どうして、どうしてそんなところにいらっしゃったんですか?」

 一陽が朝礼台から飛び降る。地面に倒れた安宅が叫びながらコートや上着、そしてシャツを引きちぎる。

「防弾チョッキ?」

「や、やはり私のような重要人物は狙われるんだ!教育委員会から来た私のような大物は危険なんだ!」

 避難を促す教師たちの怒声が響く。三年生の学年主任が警察に連絡している。校舎になだれ込む生徒たちの金切り声の合間に、「何が大物だ?」「みっともねえ。もろ雑魚じゃねーか」という罵声が混ざる。

「深夜!大丈夫?」

「うん、萌ちゃんも」

 身をかがめながら銃声のした方を振り返る二人に、八島と呉服が駆け寄る。

「深夜さん!萌さん!」

「八島クン、あれ、何なの?」

「わからない。ただ、銃声の聴こえた場所には誰もいないし、何もない。安全が確保できたかどうかはわからないけれど」

 深夜が中等部の列の方に走る。

「エミちゃん!」

「あ、深夜先輩!」

 教室へと向かう列の中で微笑が答える。

「無事でよかった。そのまま教室に避難して」

「深夜先輩は?」

「私は大丈夫だから」

 微笑は立ち止まり、深夜に向かって走って来た。

「エミちゃん!だめ!」

 しかし微笑は深夜の前に来ると、「微笑だってネストですから」と笑顔を見せた。ほぼ同時にサイレンが聴こえた。柵の向こうの道路に赤色灯を付けたセダンの屋根がちらりと見える。

『月の裏側』(クロード・レヴィ=ストロース)から

 レヴィ・ストロースは、『銃・病原菌・鉄』の中でも言及されています。

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