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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第八章 『マックスウェルの悪魔』
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12.〝ベルリン・天使の詩〟

「ベルリン・天使の詩」(ヴィム・ヴェンダース監督 1987年のフランス、西ドイツ合作映画)

この頃はまだ「西ドイツ」「東ドイツ」がありました。

「大丈夫?」

「え?あ、はい」

 微笑が顔を上げ、それから言った。

「あの、真昼先輩ってどんな人でした?」

「どんなって?」

「微笑は、林間学校の数日間しか知らないんですけど、その時、真昼先輩に助けられて。でも、また会いたいって思ってたまま、結局会えなかったから。深夜先輩とかなり違うタイプだってのはわかってますけど」

「そうだね。一言でいえば、本当に天使のような子だったよ」

「天使ですか?顔も声も女の子みたいだから、ですか?」

「まあ、そういうところとか、小柄で華奢なところとかもあるけど、そういう外見じゃなくてね。物怖じしなくてすごく人懐っこい、名前の通り、真昼の太陽のような子だった。夜の静けさや包み込む優しさを持ったシンちゃんとは対照的に。それに、天使は、正義のために戦うんだよね。自分が納得しなければ動かない。大人にあれこれ指図されるのが嫌いで、相手が誰だろうと、自分が正しいと思えば向かっていく。マー君の信じた正義が何であれ、マー君は、自分が信じるものの為に生きたんだね」

「何となくわかります」

「もちろん、まだ子供だし、どう考えてもマー君が間違ってることもあるんだけど、とにかく自分の理屈に会わないと納得しない。そして誰かれ構わず絡み、思ったことをそのまま主張する。でもね。事故の数か月前から、マー君が変わった。最初は、だんだん大人になって行くのかな、と思ったけど、そうじゃなかったんだね。『ベルリン・天使の詩』って映画だと、見えない天使が聴こえない声で人に囁くんだけど、今思えば、あの頃のマー君には、見えない悪魔がとりついて、聴こえない声でずっと耳元で囁いていたのかも知れない。何より、それに気づいてやれなかった自分が悔しいよ」

「あの」

「何?」

「泣いてます」

 微笑の指摘に伝が左手を自分の頬にやる。それからティッシュペーパーを取って頬を拭った。

「水無瀬さんも使って。使い切る勢いで」

「はい、ありがとうございます」

 微笑も数枚目と鼻に押し当て、そして小声で呟く。

「真昼先輩の、悪魔」

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